2019年度の主な施策とその取り組み課題の整理(医療&介護)

医療&介護情報編 2019.3月作成時点
 
本編では、2019年度前半に待ち受ける施策やイベント等のポイントとして、「1.2040年を見据えた2019年度に予定される施策」を整理し、「2.医療機関等における働き方改革のポイント」「3.新天皇即位等に係る10連休時の注意すべき点」「4.改正健康増進法による医療機関の敷地内禁煙」「5.増税改定や軽減税率導入の医療機関等への影響」を確認していきます。
 
2019年度は新元号への変更をはじめ、制度改革の転換期による様々な環境変化に注視しなければなりません。
なお、働き方改革関連法施行に関する詳細は、以前整理した「2019年4月施行 働き方改革のポイント」をご参照ください。
 
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確認 Keyword

・インターバル制度や有休取得のポイント
・10連休時の休日加算の取り扱い
・医療機関の敷地内禁煙の範囲
・増税改定や軽減税率導入のインパクト

 

1. 2040年を見据えた2019年度に予定される施策

  • 2040年は団塊ジュニア世代が高齢者となり、社会保障の担い手である労働者の不足が懸念されるため、社会保障を持続していくうえで重要なターニングポイントと位置付けられています。政府は社会保障の持続可能性を確保するため、9月末に完了する社会保障税一体改革を継承しつつ、2040年を展望した施策として「健康寿命の延伸」や「医療・福祉サービス改革」を推進していく方針を固めています(下図)。
     
    「健康寿命の延伸」では生活習慣病の発症・重症化予防やフレイル予防などの取り組みが盛り込まれ、「医療・福祉サービス改革」においてはロボット・AI・ICT等の実用化やデータヘルス改革が推進され、タスクシフティングを担う人材育成等の改革プランが掲げられています。 押さえておきたいポイントは、改革の目的は生産性の向上やAIの推進で人材不足を補いつつ、質の高い医療サービスの実現により、健康寿命の延伸を目指している点です。

     
     
    2019年度は2040年を見据えた制度改革の序章と位置づけることができます。それでは、2019年度予定のインパクトのある4つの事項のポイントを確認していきましょう。
     

 

 
 

2. 医療機関等における働き方改革のポイント

  • 長時間労働の是正と多様で柔軟な働き方の実現を目指した働き方改革の施行内容とその時期を確認すると(下表)、中小企業を配慮した段階的な施行時期となった点を踏まえ、直近に迫る4月1日施行の事項を中心に準備と対策を練っていくことが重要です。
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  • 「勤務間インターバル制度」は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を確保する仕組みです。未導入に対する罰則規定はなく努力義務ですが、過重労働は健康を害するとともに、とりわけ医療分野では医療安全にも影響するため、医師や看護師等の夜勤・交代制勤務におけるインターバルの制度化が求められています。このインターバルは、夜間帯の予期せぬ緊急出勤やシフト調整による連続出勤が伴う場合には始業時間を調整して勤務する「インターバル休暇」と「時間単位の年次有給休暇制度」を組み合わせ、同時に活用することも可能です。
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  • 「年次有給休暇制度」に関しては年10日以上の有休を与えられた労働者全員に、本人の希望を踏まえた使用者による年間最低5日の時季指定の休暇付与(取得)が義務付けられます。事業の正常な運営を妨げる休暇希望に対しては「時季変更権」により使用者が別の日にするよう変更を命じることができ、労働者の計画的な休暇取得が望まれています。同時に、使用者は「年次有給休暇管理簿」等により有休の取得状況を把握する必要がある点に注意しなければなりません。
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  • そして、労働に係る「残業時間の規制」では、4月1日から上限を月45時間、年360時間とする改正が施行(中小企業の適用は2020年度)されます。ただし、今回の改正では勤務医の長時間労働をすぐに是正できないと判断され、医師は5年間猶予となりました(医師は2024年度に個別の上限ルールが適用)。使用者は残業時間の上限管理だけでなく、労働時間の把握に関して厳格化され、「タイムカード」等の客観的な方法などを導入しなければならず、労働時間を把握できる体制に改めつつ、業務の効率化や改善に努めていかなければなりません。
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  • 今回、「年5日間の有休の時季指定義務」および「残業時間の上限規制」の未実施に対する罰則として、6カ月以下の懲役または30万円以下/人の罰金が設けられ、その対応への重要性が伺えるものであり、特に注意が必要です。
 
 
  • 3. 新天皇即位等に係る10連休時の注意すべき点

  • 新天皇即位に係る2019年5月1日は1年限りの祝日と決まり、祝日法による祝日に挟まれた平日は祝日扱いとなり、一般的なGWは10連休のスケジュールとなります。
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  • 10連休において社会的に最も懸念されている点は、緊急時の医療提供体制です。都道府県では10連休時の各医療機関の開診状況をヒアリングし、医療機能情報提供制度や自治体のホームページ、広報誌などを通じて、住民等に十分に周知していくための準備を行っています。
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  • 特に、入院医療や在宅医療における休診時の患者の受入先や往診対応をはじめ、必要な医薬品や人工呼吸器、酸素供給装置などの提供体制が危惧されているため、該当する医療機関や薬局では患者サービスに不備がないよう、これらの仕入先の営業日やトラブル時の対処法を確認しながら入念に準備していかなければなりません。加えて、連携体制を有し、複数人が患者に関わる場合には引き継ぎ事項を見える化し、医療や調剤の過誤を防ぐマネジメントを徹底していく必要があるでしょう。
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  • 10連休における診療報酬等の取り扱いについては、従前通りの「休日加算」の取り扱いとする旨が通知されました。「休日加算」は日曜日および祝日、年末年始が休診の場合、患者からの希望で緊急を要する診察を行った際に算定できる加算点数です。救急医療の確保に資する地域の輪番制当番医であれば「休日加算」が算定できますが、医院判断による通常開診では算定できません。
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  • 注意すべき点は暦上では10日間すべてが祝日ではなく、4月27日(土)と4月28日(日)は祝日ではないということです。つまり、10連休中に土日と祝日が混在している点を再認識し、特に人工腎臓に係る点数では「祝日」と「日曜」の取り扱いが他の点数と若干異なるため、留意する必要があります。
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  • この他、外来の投薬に関する例外的な対応として、投薬量が1回14日分を限度とする処方については、処方箋の「備考」欄に長期の旅行等特殊の事情の理由を記載することで14日を超える投与も認められることとなっています。長期旅行などの事情による処方箋の使用期間が交付日を含め4日を超える場合、「使用期間」欄に年月日を記載すれば有効となります。10連休前後の受診が予定される患者に対しては、イレギュラーな取り扱いがある点を認識したうえで、次回以降の受診時に、10連休の緊急連絡先や開診日および休診日をアナウンスしていけば、不要なトラブルを回避できるでしょう。
 
なお、介護事業所等においても、利在宅医療と同様に、365日サービス提供を求める利用者本人や家族も少なくない点を考慮し、営業するか否かの事業者判断が必要です。3月20日に示された通知を参考にしながら、対利用者サービスの充実(休日出勤)と働き方改革の推進(休暇付与)という悩ましい課題を克服する良い機会だとポジティブに捉えて、取り組んでいくことが賢明ではないでしょうか。
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  • 4. 改正健康増進法による医療機関の敷地内禁煙

  • 改正健康増進法(平成30年法律第78号)の施行により、望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分(第一種と第二種)に応じて、その施設の敷地内や喫煙専用室を除いた屋内での喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理者に対する講ずべき措置が明文化されました(下図)。
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  • 医療機関は、子どもや患者等に特に配慮が必要な「第一種施設」に属し、学校や行政機関の庁舎等と同様に、7月1日に敷地内禁煙が適用となります。また、一般企業の事業所や工場、ホテルや飲食店等の「第二種施設」においては2020年4月1日に原則屋内禁煙が施行されます。
  • 喫煙場所の設置は、第一種では屋外であれば認められ、第二種は屋内の喫煙専用室の設置も認められています。これらの禁煙が適用となる施設の範囲は多数の者が利用する場所がメインであり、個人の自宅やホテルの客室等、人の居住の用に供する場所は適用除外となっています。
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  • 今回の改正法の施行により、病院のみならず診療所も対象施設に盛り込まれたため、自宅兼診療所のような開業形態であっても、診療所の届出区分の領域に対して法が適用される点に留意しましょう。
 
 
  • 飲食店における喫煙専用室の設置では、紙巻きと加熱式のたばこの種類による取り扱いの違いや、小規模店舗に対する経過措置が設けられるなど、東京オリンピックの開催に向けて、私たちの暮らし(外食)に関わる環境変化が進んできたといえるでしょう。
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    5. 増税改定や軽減税率導入の医療機関等への影響

    消費税は平成元年の導入時より、商品の販売やサービスの提供などの取引に対して、広く薄く公平に税金を課すという特徴があり、最終消費者が税を負担し、それを課税事業者が預かって納税する間接税となっています。
     
    本来、事業者の自己負担がないのが原則ですが、医療機関や薬局、介護事業所等では社会保険診療等が非課税取引であるため仕入税額控除ができず、医療機関等が仕入れの際に負担した消費税がコストとなる構造が問題になっています。こうした消費税の負担を解消するため、増税の都度、診療報酬改定による上乗せ措置が行われてきました。10月に控えた消費税率10%への引上げ時においても、社会保険診療等が非課税取引という点は変わらないまま、増税による負担分をカバーするため基本診療料等の上乗せ改定が行われます(下表)。
     
    増税改定は算定要件の見直しがなく経営的なインパクトもないため、ここでは詳細を割愛しますが、変更される個別点数は2月13日の中医協等の答申資料でご確認いただけます(診療介護障害)。点数告示は現行点数との二重収載による混乱を避けるため、答申時には見送られ、改定直前になる見通しです。
     
    増税改定では、基本診療料等がプラス改定であるものの、薬価等は実勢価改定によりマイナス改定となることから、薬剤費のウェートが高い院内処方の医療機関や薬局では、収入減につながる点に留意しなければなりません。
     
     
     
    さて、医療機関や薬局、介護事業所等において、増税改定以上に注意しなければならない点は「軽減税率」などの新たな仕組みが導入される点です。
    医療機関等では社会保険診療等の非課税取引以外に、自由診療や健診、一般用医薬品、飲食料品、物品等の販売を行っているケースもあり、こうした課税取引がある場合、社会保険診療等の「非課税取引」に加えて、「標準税率(10%)」と「軽減税率(8%)」の課税取引が混在します。このため、対象品目があれば売上に係る経理業務の変更が強いられるケースもある訳です。
     
    「軽減税率」の対象品目は「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約に基づく週2 回以上発行される新聞」と限定的であるものの、「飲食料品」の対象範囲は広く、やや複雑になっていますので体系図で確認しておきましょう(下図)。

     
     
    加えて、経費に係る経理業務の面でも、「軽減税率」の対象品目である定期購読の新聞代は新聞図書費、飲食料品は贈答用の食品や会議用の茶菓、弁当などが交際費や会議費、福利厚生費などの経費(および仕入れ)に含まれるため、ほぼ全ての事業者に関与するものとなっている点に注意しなければなりません。
    ここでは「軽減税率」が生活者だけでなく、事業所にも関わる点を押さえ、今後の影響や対応法等については実務に携わる顧問税理士へ確認しておくとよいでしょう。
     
    例えば、複数税率の販売があれば「区分記載請求書等」に対応したレジや受発注システムの導入や改修を検討しなければなりません。機種の選定においては税率対応のみならず、政府が推進するキャッシュレスのポイント還元やマイナンバーカードの利用促進による自治体ポイント等との仕様に係る互換性や拡張性を考慮しつつ、「軽減税率対策補助金」の活用も検討材料になります。
     
    また、一部の医療機関や薬局に関わる「軽減税率」の対象品目の取引がある場合には、複数税率に対応した区分経理に係る「区分記載請求書等」の発行や経理業務が必要になります。2019年10月に導入される「区分記載請求書等保存方式」において、課税事業者は仕入税額控除をする要件としてその対応が必須となり、免税事業所(課税取引1,000万円未満)でも課税事業者との健診等の取引(課税事業者による免税事業者からの仕入れ)がある場合、「区分記載請求書等」の発行が求められるケースもあります。
     
    そして、2023年10月1日には「区分記載請求書等保存方式」の進化版として「適格請求書等保存方式(インボイス)」が導入され、免税事業者と課税事業者の取引が明確に線引きされることとなります。この線引きにより、課税事業者がインボイスのない免税事業者と取引すると仕入税額控除ができず、割高になるうえ経理の事務量が増えるため、免税事業者との取引が敬遠される可能性があります。激変緩和措置として、一定期間の経過措置があるものの2029年10月に措置が終了となります。但し、これら区分経理に係る変更は少額取引に対する例外措置もあり、具体的な取引額等による判断が必要です。
     
    こうした税務会計への対応や、新元号への変更も含めた経理業務に関わるシステム改修などは経営者や税務担当者の範疇となりますが、現場スタッフにおいては患者サービスや患者負担に関わる変更点をしっかり確認していきましょう。
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本編の考察

今回は、2019年度に予定される医療機関や薬局、介護事業所等に関わる留意すべき事項のポイントを整理しました。いずれも法的対応が求められていることから、コンプライアンスを徹底していくことが重要です。
 
とりわけ消費増税に伴う経理業務の変更に関しては、課税取引の販売額や軽減税率の対象品目の取り扱いなどにより、その対応は千差万別であるため、個別の税務会計の処理や対応は実務に携わる顧問税理士等の判断が必要です。以上、新年度に向けた取り組み課題の整理、制度改革の転換期による環境変化への対応策としてご参考にして頂ければ幸いです。
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