データヘルス改革の注目キーワード(医療&介護)

医療・介護情報編 2018.12月作成 ※最新版:集中改革プラン2020(2020.10月作成)は別途整理しております。
 
本編では、2040年を見据えた新たな改革の方向性に関する未来投資会議社会保障審議会等の審議動向を踏まえ、「1.2040年に照準を合わせた改革プランの方向性」を確認し、「2~3.データヘルス改革に関わる様々なキーワード(医療編&介護編)」、「4.NDBと介護DBの連結によるデータ活用と期待効果」を整理していきます。

今般、急速に進むテクノロジーの進展に適合した法整備が課題となり、新たな仕組みが検討されている状況です。データヘルス改革は、医療機関等における患者情報の取扱いやネットワーク等のインフラ整備だけでなく、個々人のライフスタイルに直結する側面がある点にも留意しなければなりません。
 
 
確認 Keyword

・データヘルス改革の重要な位置づけ
・被保険者番号の個人単位化のメリット
・オンライン資格確認システムの整備
・データポータビリティの促進によるPHRサービスの充実
・データヘルス改革における科学的介護の位置づけ
・介護保険総合データベース/VISIT/CHASE
・NDBと介護DBの連結によるデータ活用

1. 2040年に照準を合わせた改革プランの方向性

2040年は団塊ジュニア世代が高齢者となり、社会保障の担い手である現役世代(労働者)の不足が懸念されるため、社会保障を持続していくうえで重要なターニングポイントと位置付けられます。政府は社会保障の持続可能性を確保するため、社会保障税一体改革を継承して、引き続き社会保障の給付と負担の見直しを重点化し、「健康寿命の延伸」や「医療・福祉サービス改革」を推進していく方針を固めています(下図)。

「健康寿命の延伸」においては生活習慣病の発症・重症化予防やフレイル予防などの取り組みが盛り込まれており、「医療・福祉サービス改革」では2025年以降、労働者(医療従事者)が一層減少すると予想される中、ロボット・AI・ICT等の実用化の推進やデータヘルス改革、タスクシフティングを担う人材育成等の改革プランが掲げられています。

改革の押さえておきたいポイントは、生産性の向上を図ることで人材不足を補いつつ、適切な医療サービスの提供の実現を目指した方向性となっている点です。介護分野ではデータヘルス改革の一端で「科学的介護」の実現をテーマに、介護ロボットの活用やICT化対応が推進されています。
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2. データヘルス改革に関わる様々なキーワード(医療編)

  • データヘルス改革の位置づけと全体像

  • 2040年を展望した新たな社会の実現を目指して、政府は「Society(ソサエティ)5.0」と呼ばれる第4次産業革命を提唱し、AI・ロボット・ICT等のテクノロジーの目覚ましい技術が新しい価値やサービスを創出して、人々の生活に豊かさをもたらしていくうえで欠かせない多様な施策を掲げています。
    「医療・福祉サービス改革」の中心的な役割を担う「データヘルス改革」では、ビッグデータの活用等により、質の高いヘルスケアサービスを効率的に提供することで、医療・介護サービスの生産性の向上を図るとともに、国民の「健康寿命の延伸」につなげていくことを目指しています(下図)。
     
     
     
  • 医療現場の環境変化に関わる重要なキーワード

  • ヘルスケアデータの利活用基盤を構築する第一歩として、まず初めに着手されるのは個人単位化した被保険者番号を用いた「オンライン資格確認システム」の整備です。「オンライン資格確認システム」は、2020年秋頃に保険者が個人単位の2桁番号を付番(被保険者番号の個人単位化)して資格確認システムに登録し、2021年3月頃からマイナンバーカード(ICチップに格納された電子証明の読み取り)によるオンライン資格確認の開始を目指しています(下図)。
     
    被保険者番号を個人単位化する理由は、この番号がビッグデータの連結や保健医療記録共有サービスのIDとして活用でき、資格情報や特定健診情報等を個人単位で一元的に集約が可能となるからです。データベースの情報を連結する場合は、被保険者番号を変換した共通の連結符号を用いた連結の仕組みが予定されています。

    こうした患者の受診に係る変更点を踏まえ、医療機関や薬局が押さえておきたい準備事項は、2020年度秋から2021年度にかけて、レセコンのシステム改修が必要に迫られる可能性が高いという点です。なお、制度移行時には、健康保険証とマイナンバーカードを併用した運用が行われ、患者がマイナンバーカードを持参しない場合の資格確認は健康保険証の券面に記載された被保険者番号で運用される見込みとなっています。

    次に確認しておきたいキーワードは、「保健医療記録共有サービス」の運用に向けた生涯を通じた健康・安全情報ネットワークの構築に関する事項です。ネットワーク構築により、「事務処理面」の負担軽減をはじめ、「保健医療情報の連携(クラウドEHR)」や個人向けの「PHRサービス」への活用、「匿名加工データ」の社会的な利活用など、様々な主体におけるベネフィットが期待されています。

    医療機関および保険者が関与する「事務処理面」のメリットでは、転職等により患者の保険者が変わっても失効保険証の利用による過誤請求や保険者の未収金が大幅に減少し、さらには資格喪失後受診に伴う事務コストの解消のほか、高齢受給者証や特定疾患療養受療証、高額療養費限度額適用認定証等の発行業務などが削減される点があげられます。
    そして「保健医療情報の連携(クラウドEHR)」では、2020年度からネットワークを介した「保健医療記録共有サービス」の運用が始まり、患者同意のもと複数の医療機関や薬局等で患者の診療情報や服薬情報等を共有し、最適な健康管理・診療・ケアを提供できるインフラが整備される予定です。共有が有効なデータ項目は、医療機関や薬局等のデータをマルチベンダー対応で原則自動収集し、データ保存のクラウド化と閲覧ビューアの共通化により広域連携が可能となる構想です。

    個々人の利用に係る「PHRサービス」では、マイナポータルで患者が医療・介護・健康に関する自身の医療情報や健診・検診情報、服薬情報等の経年データや最新情報を閲覧して予防や健康増進等に役立てることができるうえ、医療機関や薬局による多職種で情報を共有することで、重複投薬の削減等も見込まれています。テクノロジーの進展とともにインフラ整備が進み、ヘルスケア分野の産業発展につながり社会的な利活用が加速すれば、私たちのライフスタイルが一変していく可能性もあるでしょう。
 
 
 
  • データ利活用の推進における注目キーワード

  • データヘルス改革をはじめ「PHRサービス」関連の注視すべき動向は、「パーソナルデータ」の流通・利活用を実現する仕組みが検討されている点です。個人に係るデータは「パーソナルデータ(個人情報を含む)」、「匿名加工データ」、「個人に関わらないデータ(IoT機器からのセンシングデータ等)」の3つに区分されます。
    これら3つのデータの流通・活用は、ヘルスケア分野に限らず各分野でも取り組み課題とされ、データ流通の便益をどのように個人及び社会全体に還元し、いかに経済の活性化につなげていくかがインフラ整備における重要なポイントとなっています(下図)。
     
     
     
    ヘルスケア分野における医療ビッグデータの利活用は、5月11日に施行された匿名加工医療情報の円滑かつ公正な利活用の仕組みを整備した「次世代医療基盤法」により加速していくと期待が寄せられています。なぜなら、「次世代医療基盤法」では国の審査・認定を受けた「認定匿名加工情報作成事業者(認定事業者)」が医療機関等の持つカルテや検査データなどの患者の医療情報を匿名加工し、ビッグデータとして企業や大学の研究開発などにおいて多様に活用できるからです。

    「次世代医療基盤法」では、医療機関等から認定事業者への医療情報の提供はあらかじめ患者に通知して本人が提供を拒否しない場合には同意とみなすことができ、認定事業者間で医療情報をやり取りしたり、「匿名加工データ」に変換すれば本人の同意なく第三者に対する提供が可能となります。このため、ビッグデータとしてAI(人工知能)による診断支援ソフトの開発や個別化医療の実現をはじめ、新薬の研究開発、診療報酬の費用対効果や治療成績の評価などに活用して、これまでにない価値を生み出すことが期待されています。

    しかしながら、「次世代医療基盤法」の施行により「匿名加工データ」の活用領域が拡大されたものの、限定的な使い方しかできないため、「パーソナルデータ」のさらなる利活用を図るため、新たな仕組みや法整備に向けた検討が進められている状況です。
     
    現在、「パーソナルデータ」の利活用に着目して検討されている事項は、口座情報照会、カード請求額、入出金明細等の「金融」、電力使用量、利用時間、利用料金等の「電力」、診療情報、健診情報等の「医療」の3分野となっています。そして、「パーソナルデータ」の流通・利活用を推進するうえでの課題は、本人が提供した官民が保有するデータを再利用しやすい形で本人に還元または他者に移管できる「データポータビリティ」の促進です(下図)。
     
    国が命題とする2040年を見据えた「健康寿命の延伸」や「医療費の適正化」を実現するには、医療分野の「データポータビリティ」の促進が必要であり、そのデータの利活用が加速すれば「PHRサービス」の充実へとつながり、最終的に個々人の健康意識の向上や行動変容による健康増進に寄与していくでしょう。
     
     
    「パーソナルデータ」の流通・利活用では、生活者個人の指示や指定した条件に基づき第三者にデータを提供する「情報銀行(情報利用信用銀行)」や、生活者個人が自らの意思で自分のデータを管理する「PDS(パーソナルデータストア)」も関連するキーワードとして押さえておきたい用語です。
    今後さらに、データヘルス改革におけるインフラ整備が急速に進展していく中で、医療分野のみならず、新たなイノベーションによる個々人や患者の暮らしの環境変化に対しても注視していく必要があるでしょう。
     
 
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3. データヘルス改革に関わる様々なキーワード(介護編)

  • 科学的介護の位置づけとICT化対応の必要性

  • データヘルス改革では、次世代ヘルスケア・システムの構築を目指し、データ利活用基盤の本格稼働に向けて科学的介護が推進されています(下図)。科学的介護は「科学的に自立支援等の効果が裏付けられた介護」の略称であり、政府はその実現に向けて、科学的分析に必要なデータを新たに収集するデータベースの構築を目指しています。データベースは2020年度に本格運用を開始し、2021年度介護報酬改定に反映していく計画としています。

    データベース構築に向けた大事な第一歩は、利用者に関する情報を介護事業者が電子化していくことであり、ここが源泉となる点に留意しなければなりません。そして、データベースの構築により、科学的介護の実現のみならず、介護事業所間や医療機関等、多職種との連携をはじめ生産性の向上に寄与していくことから、介護事業者に対して積極的なICT化への対応が求められている訳です。
     
     
     

    科学的介護の実現に不可欠なデータ収集

    「科学的介護」に関わるデータの種類は「介護保険総合データベース(以下、介護DBに略」、「VISIT(ビジット)」、「CHASE(チェイス)」の3つが設計され、いずれも介護事業所等の負担を考慮し、電子化して収集・提出しやすい項目が選定されています(下図)。
     
    「介護DB」は、介護サービスの利用実態、要介護認定者の健康状態による必要な介護サービスの実態等を把握するための電子化した介護保険レセプトデータと要介護認定データを統合したデータベースであり、2018年度にデータ提供が義務化されました。
    「VISIT」は、通所・訪問リハビリのデータ収集事業として、各リハビリにおける計画書及びプロセス管理表のデータを蓄積するために設計され、2018年度介護報酬改定においてリハビリマネジメント加算(Ⅳ)を新設して評価が開始されました。
    「CHASE」は、介護保険サービス全般の提供内容と利用者に関する心身状態の変化・改善の関係性のデータを収集し、サービスの質や効果のエビデンス(科学的裏付け)を蓄積していく計画であり、2020年度から本格運用が予定されています。
     
     
    そして、データベースを構築して解析が進むことで、介護事業者のパフォーマンスの良し悪しは介護報酬上のアウトカム評価と保険者に対する評価(財政的インセンティブ)に反映される計画となっています。さらにデータ解析の結果次第では、介護報酬上の評価だけでなく、例えば人員基準の緩和など、各サービスの基準見直しを図る裏付けとして将来的に用いられる可能性がある点も押さえておきたいポイントです。

    また、科学的介護の実現では、介護ロボットの開発による経済的な効果と深刻な人手不足補うことが期待されている側面もあります。今後、介護ロボット導入に係る補助金の拡充や人員基準の緩和が様々なサービスに波及することも十分に想定されるため、人材確保の取り組みと並行して戦略的に導入検討を進めていくことも大切です。
    介護事業者におけるICT化対応の取り組みは、利用者のQOLに直結し、社会資源となる介護データを取扱う重要性を再認識しなければなりません。単なるシステムや機器の導入で片付けられる話ではなく、介護のICT化やロボット等の推進により、介護現場の生産性向上や働き方改革の推進の一翼として活用していく視点で導入を判断するとよいでしょう。

    なお、データベースの構築により懸念される事項は、現場の人員配置やレセプト請求の実態が見える化される点です。精度の高い解析により、機械的にイレギュラー値をはじき出すことが容易になれば、これまで以上に不正請求などの労務や法務の監視が厳しくなることも予想され、コンプライアンスの徹底も必要になります。まさにICT化への対応は介護事業所における喫緊の課題だといえるでしょう。
 
 
 
 

4. NDBと介護DBの連結によるデータ活用と期待効果

  • NDBと介護DBの連結によるデータ活用

  • ここでは、「保健医療データプラットフォーム」の構築に向けて進められている、NDB(診療レセプト・特定健診・保健指導の情報)と介護DB(要介護認定等情報・介護レセプト等情報)のポイントを整理していきます。
    前述した科学的介護の実現において不可欠な「介護保険総合データベース(以下、介護DBに略)」に関する情報はすべての介護事業者が関わり、システムや機器を導入するうえでも今後予定されている様々な展開や全体像を把握していくことが大切です。

    今般、介護DBの項目や方針が固まってきましたが、次のステップではNDB(診療レセプト・特定健診・保健指導の情報)とのデータ連結が2020年度に向けた大きな課題となっています。現行の介護DBでは、高齢者が利用している介護サービスの種類・量・費用と要介護度・ADL等しか分からず、それらの変化に影響した医療的な要因が把握できません。
     
    そこでNDBと連結することで、介護サービスと医療サービスの提供内容(疾患名等)との関係性が把握できる点が期待されています。各データベースの位置づけは下図のように整理されています。
     
    今後のNDBと介護DBの連結においては、利用の公益性確保や個人特定の防止(匿名化)を図りつつ、両データベースの収集・利用目的に連結解析する旨を盛り込む法改正が必要となっています。そして、これまでNDBの第三者提供では認められてこなかった民間企業を含めた幅広い主体による公益目的での利用を促進していくため、第三者提供の制度見直しも不可欠だと現時点で想定されています。さらに2021年度以降、保健医療分野の他の公的データベース(DPC、全国がん登録、指定難病・小児慢性特定疾病、MID-NET)との連結を視野に入れた法的措置を講じる必要性も考慮されています。

    こうしたデータヘルス改革が進展する中、個々人の暮らしに関わる面ではマイナンバー制度において医療・介護・健康に関する経年データや最新情報を閲覧して、予防や健康増進等に役立てることができる「PHR(Personal Health Record)サービス」の整備が進められている点も関連する動向として見逃すことができません。
     
     
     

    NDBと介護DBの連結による期待効果

    介護DBとNDBの連結では、医療・介護サービスの各情報から高齢者の健康寿命や傷病と要介護度の関係性、利用された医療・介護費用が分かり、適切な医療・介護サービス提供に関する効果や費用のエビデンスが構築できる見込みとなっています。そして、データベース連結の具体的な期待効果としては、介護DBとNDBを一体的に組み合わせて追跡することで、「健康寿命の延伸」にむけた分析が可能となり、さらには医療・介護間の機能分化及び連携に繋がることも期待されています(下図)。
     
    介護事業者におけるICT化への対応は、介護報酬上の評価のみならず、質の高いサービスの提供や利用者から選ばれるうえでも不可欠であり、科学的介護の実現を目指したデータベースの構築に向けて、その対応すべきリミットが確実に近づいてきたといえるでしょう。
 
 
 
 

本編の考察

今回は、2040年を見据えた新たな改革の方向性について整理しました。テクノロジーの進展により、医療・介護現場だけでなく私たちの暮らし方も劇的に変化する可能性があるため、とりわけICT関連のインフラ整備に係る情報の重要性が増してきたといえます。介護事業者における今後の取り組みの中でも、ICT対応は人材確保対策や介護ロボット導入とともに検討していく重要性が増してきたといえます。
 
以上、データヘルス時代に向けた環境変化に関する最新動向として、ご参考にして頂ければと思います。
 
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