【新型コロナ感染拡大防止に係るR2補正予算】介護事業者等の慰労金や補助金のポイント

2020.7月1日掲載(7月10日追加更新)
 
  • 人類を脅かすパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19に略)はグローバルな医療危機に発展する中、我が国では過去最大級の補正予算が計上されました。新型コロナウイルス対策は、締めすぎれば経済が崩壊する一方、緩めすぎると感染者の急増と医療崩壊を招くことが懸念されているため、政府の微妙な手綱さばきで対応が決められております。
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  • 介護事業者等(慰労金に関しては有料老人ホームやサ高住等も該当)においては、パンデミック収束の糸口が見えない状況下において事態の長期化が想定される中で、第2波に備えた感染対策を強化する様々な支援が盛り込まれた補正予算における「新型コロナウイルス感染症 緊急包括支援交付金」および「各種補助金」に注目していきましょう。
 
 
確認 Keyword

・補正予算における感染対策の位置づけ

・介護従事者慰労金のポイント →申請は、厚労省 専用サイトパンフレットをご確認ください

・感染拡大防止に係る補助金の活用

 

■ 厚労省 R2補正予算の位置づけと全体像

  • 4月30日に成立した「第1次補正予算」は、国民の「命」「雇用」「生活」を守ることを主とし、感染拡大を防ぐために全戸への「マスク配布」をはじめ、家計への支援として「特別定額給付金」の支給、中小企業の事業継続を支える「持続化給付金」の支給、雇用を守るために「雇用調整助成金」の新型コロナ特例措置の拡充などが盛り込まれました。そして、6月12日に成立した「第2次補正予算」では「第1次補正予算」を大きく上回る予算が計上され、COVID-19の現状を踏まえ、事態の長期化を想定した「感染拡大の抑え込み」と「社会経済活動の回復」の両立を目指す対策強化が盛り込まれました。
 
厚労省の補正予算の配分は、「令和2年度 第1次補正予算(厚労省)」では雇用を最優先して新型コロナ特例の「雇用調整助成金」の措置を行いつつ、感染拡大防止の対策が組み込まれたのに対し、「令和2年度 第2次補正予算(厚労省)」では「第1次補正予算」を大きく上回る予算が計上され、「雇用調整助成金」を更に拡充したほか、新型コロナ対応の新たな医療提供体制の整備や感染拡大防止に対して重点的に予算配分された点がポイントだといえます(下図)。
 
  • 医療機関等では、深刻な影響を及ぼす経済と雇用を建て直していくうえで、医療崩壊を防ぐために進めてきた自粛が緩められた(≒社会経済活動の優先により感染者が増える可能性が高まった)点を理解し、「新型コロナウイルス感染症 緊急包括支援交付金」における様々な支援を活用して、対策を練っていくことが重要です。
 
介護分野では、後述する「新型コロナウイルス感染症 緊急包括支援交付金(介護分)」における「慰労金」だけでなく、感染拡大防止における「各種補助金」が盛り込まれ、新型コロナ対応の新たな介護提供体制の整備が進められていきます。本編は「慰労金」と主だった「補助金」に絞り込んだ解説となり、すべてを網羅していませんのでご留意ください。また、「交付金」と「支援金」と「補助金」の3つの用語の表現については、明確な定義が示されない中、ほぼ同義で用いています。
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■ 対応従事者 慰労金のポイント

支給は2区分「20~5万円」、対象は職種に関係なく利用者に接する職員へ支給

まずは「新型コロナウイルス感染症 緊急包括支援交付金」の全体像を確認していきます。「感染症対策支援事業」では、感染症対策に必要な物品や研修等のかかり増し費用を支援していくこととなりました。「職員に対する慰労金支給事業」では、感染患者や濃厚接触者に対応した施設や事業所において利用者と接した職員に対して20万円、それ以外の介護現場等で利用者と接した職員に5万円という2区分の慰労金が設定されました。この他、サービス再開に向けた支援が盛り込まれ、いずれも都道府県による全額補助となります(下図)。
 
 
 
緊急包括支援交付金のうち「新型コロナウイルス感染症 対応従事者慰労金事業」においては、介護事業所等に勤務する感染者と接点があった職員か否かにより2区分(20万円、5万円)の慰労金が支給されることとなりました(下図)。対象者は「感染者か利用者との接点」で判定し、介護事業者に限定せず、有料老人ホームやサ高住なども含む職種を問わない職員とされています。
 
前例のない慰労金の支給は、COVID-19の拡大防止・収束に向けて、感染リスクがある中で接触を伴いながら介護を継続してきたことに対する慰労と位置付けられます。慰労金は非課税所得とされ、所得にならないため税金にも反映されず、扶養の範囲内や配偶者特別控除を考慮して働くパート労働者にも影響がないよう配慮されています。2区分の慰労金は、感染者の有無によりシンプルに以下のように区分けされています。
 
20万円 =感染者がいた場合 感染者や濃厚接触者に対応した介護事業所等に1日でも勤務した職員
5万円 =感染者がいない場合 20万円以外の勤務先で、利用者と接する職員
 

 

 

申請および支給におけるポイント確認(いつ支給されるか? どんな添付書類が必要か?)

今回、慰労金の対象期間は「各都道府県の感染症患者の1例目発生日または受入日のいづれか早い日から6月末まで」となり、支給条件は「6月末までに10日以上の勤務」とされています。
支給の判定ポイントは、実際に従事していたことを確認しなければなりません。職員の従事を確認する書類として、「法定三帳簿」と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」があり、これらの書類は事業者が揃えておかなければならず、働き方改革のベースとなる雇用管理を再確認する機会になります。​
 
支給に関しては、介護従事者等が勤務先の介護事業者等に代理受領の委任を行い、介護事業者等が都道府県に給付申請を行うのが原則です。各介護事業者等では、支給対象の職員の人数や金額をまとめて都道府県に申請し、介護事業者等が代理受給した後に職員に支給(7~8月)する運びとなることから、都道府県毎の情報を確認していく必要があります。なお、支給タイミングは県議会の進捗や決議に左右されるため、各都道府県によりマチマチです。早ければ7月中、遅くとも8月になると想定されますので、各都道府県の最新情報の確認が必要になります。この他、自治体独自の支援金支給などの情報についても要確認となります。
 
 
 
 

■ すぐに活用しておきたい! 各種補助金のポイント

介護ロボット導入支援の拡充

新型コロナウイルスは非常に強い感染力が特徴的であり、飛沫と接触による感染経路を遮断することにより感染予防ができるものの、外部からの患者や職員の行き交いがある以上、感染リスクの可能性をゼロにできない側面があります。緊急事態宣言の解除から1ヶ月余りが経過し、6月19日には都道府県をまたぐ移動の自粛が全国で緩和されるなど、社会経済活動のレベルが引き上げられたことに伴って市中感染のリスクがさらに高まってきた点を踏まえれば、介護クラスターに対して、より一層の注意が欠かせません

補正予算では、こうした社会経済活動の再開に伴う感染リスクの高まりを見据え、各都道府県に設置された地域医療介護総合確保基金(以下、基金に略)を活用した「介護ロボットの導入支援」が拡充されました(下図)。新型コロナウイルス感染症の発生によって職員体制の縮小や感染症対策への業務負荷が増えている現状を踏まえ、更なる職員の負担軽減や業務効率化を図る必要があると判断した訳であり、人材不足を補う切り札として推進してきた介護ロボットの導入への期待の高さがうかがえます。
 
今回の補正予算における介護ロボット導入支援の拡充では、以下の4つの事項に注目です。
① 移乗支援・入浴支援ロボット導入に係る補助額引上げ →1機器あたり上限100万円
② 見守りセンサー導入に係る補助額引上げ →1事業所あたり上限750万円
③ 1事業所に対する補助台数の制限(利用者定員の2割まで)の撤廃
④ 事業主負担を1/2負担から都道府県裁量の設定に見直し(事業主負担は必須条件)
 
これらのうち今回の拡充において押さえておきたいポイントは、対象となる介護ロボットが移乗支援・入浴支援・見守りセンサーに限定されて金額が大幅に増額された点です。限定された理由は、これらの介護ロボットは感染予防で推奨される3密を避けるうえで有効な非接触型であり、さらに慢性的な人材不足を補う手立てや働き方改革への対応の一助と期待されるからです。この他、確認しておきたいインパクトは、これまでの補助金は事業主負担が対象経費の1/2でしたが、都道府県の判断により自由な設定に改められた点です。基金は、地域の実情に応じた整備を目的として補助を実施しているため、導入を検討の際には各都道府県の補助率などの最新情報を確認する必要があります。
 
 
 
 

ICT導入支援の拡充

介護現場へのICT化導入の支援策は、令和2年度の基金における「ICT導入支援事業」に盛り込まれました。この事業では、介護事業所等における業務の効率化を通じてヘルパー等の負担軽減を図り、利用者に対して質の高いサービスを効率的に提供することを目的に補助金が設定され、科学的介護の実現を目指して5月から稼働された「CHASE」対応のシステム改修や導入効果の報告等が要件となっています。

具体的な補助対象は、介護ソフト及びタブレット端末だけでなく、導入関連費用の一部も助成されます。そして、介護分野のICT化を全面的に進め、ICTを活用して介護記録から請求業務までが原則一気通貫で行うことができるよう、すべての介護保険サービスが対象となっています。注目ポイントは、今般の感染予防における業務負荷を考慮し、業務効率化や感染予防を強化していくため、令和2年度補正予算において補助上限額の倍額のほか、Wi-fi購入や設置費、勤怠管理等の介護ソフトも拡充された点です(下図)。
ICT導入支援は、介護ロボット導入支援と同様に、基金の運営は各都道府県の裁量になっているため、補助率や割り当ての件数が異なる点に留意しなければなりません。導入を検討の際は、まずは介護業務ソフトを導入しているベンダーに確認を進めながら、「CHASE」対応も含めた業務全体の最適化を考えていくことが重要です。
 
介護事業者における介護ロボットの導入やICT化対応の取り組みは、システムや機器のハード整備として片付けられる話ではなく、介護のICT化やロボット等の推進により、介護現場の生産性向上や働き方改革の推進の一翼となる点を踏まえて導入し、運用していくことが大切です。例えば「CHASE」をはじめ、介護データベースにおけるデータ解析の結果次第では、介護報酬上の評価(加算)だけでなく人員基準の緩和など、各サービスの基準見直しを図る裏付けとして将来的に用いられる可能性があります。さらには、介護事業者のパフォーマンスの良し悪しは介護報酬上のアウトカム評価と保険者に対する評価(財政的インセンティブ)に反映される計画となっている点にも注目です。

ICT化への対応は介護事業者における喫緊の課題であり、Withコロナ時代を見据えた感染対策に欠かせないツールとして活用する視点も重要になります。感染対策は利用者や職員を守り、そして介護事業を継続するうえで必要不可欠になったといえるでしょう。
 
 
 
 
 

介護施設等に対する感染拡大防止の補助

全国各地で介護施設のクラスター(感染者の集団)が相次いで発生する中、多くの施設では感染の危機に直面し続けている状況です。クラスターが確認された施設の実例では、感染が利用者だけでなく職員にも一気に拡大し、死のリスクに直面するとともに、濃厚接触者となった職員が出勤できなくなり、しまいには感染を恐れて出勤を控える職員も出るなど、クラスターによる人材不足に陥る点が大きな問題となっています。

そして、介護クラスター特有の傾向としては、医療機関において感染した入所者の治療以外の介護まで手が負えない点、認知機能の低下が見られる入所者ではマスクや手洗いなど感染予防の励行が難しい点、生活に欠かせない食事や入浴の介助そのものが感染リスクとなる点など、介護施設等の感染対策の難しさが明らかになり、一度クラスターが発生すると負の連鎖が起きるリスクも分かってきました。さらに追い打ちをかけたのが地域における治療の受け入れ態勢の逼迫です。本来であれば、重症化しやすい高齢者は軽症でも入院が原則であるものの、地域の相次ぐ感染者の増加により医療機関でも重症者以外は受け入れる余裕がない医療崩壊のリスクが高まり、軽症の入所者を施設内で診療と介護を続けざるを得ない状況は他人事ではない深刻な実態だといえるでしょう。

こうしたクラスターの発生が、自施設のみならず地域全体に深刻な影響を及ぼす点を鑑み、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、基金を活用した介護施設等へ感染拡大防止の各種支援が盛り込まれました(下図)。介護施設等においてはこれらの支援を有効活用して、感染対策を強化していくことがポイントになります。
 
 
 
 
そして、介護現場は介護そのものが密着する機会が多く、3密を防ぐ新しい生活様式を取り入れにくい状況であり、クラスター対策が喫緊の課題となっています。特に介護施設は3密を避けにくい構造であり、感染拡大が比較的落ち着いている今のうちに対処しなければ危機的な状況に陥りかねない側面があります。こうした実態を考慮し、地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金として、介護施設のみならず入所系サービスも対象とした多床室の個室化に要する改修費を補助する支援が盛り込まれました(下図)。
 
 
 
 

【まとめ】新型コロナ感染対策の重要性

現在、未知なる新型コロナウイルス感染症の収束に向けて、治療薬の承認をはじめ、ワクチンや抗体検査の開発など、様々なスペシャリストが尽力されています。そして、感染対策に携われている医療・介護現場の皆様方のご尽力に対し、敬意と感謝を申し上げます。国民一人ひとりの啓発により、この危機を乗り切って、新たな社会へと転換していくことを望むばかりです。
 
今回解説した、補助金や支援金等は感染拡大防止を目的としたものであり、各医療機関等のみなさまに広く確実に取り組んでもらうために給付するお金です。しっかりと補助金を使って感染拡大防止の取り組みに参画していく姿勢が重要です。
 
介護事業者等においては、これら一定額の補助金を有効活用し、第2波に備えて感染拡大防止の強化が求められている点を再確認し、確実な対策を実行していくことが大切です。これら支援金等の申請に際して、書類に不備があれば支給が遅れますし、書類を改ざんすれば刑法違反に問われかねない点にも留意しておきましょう。以上、少しでもお役立て頂ければ幸いです。引き続きご支援のほど、宜しくお願い申し上げます。
 
(作成:ヘルスケア情報専任者 笹森昭三) 
 
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