医療経営に関わる医療費及び診療単価の動向

医療情報編 2018.11月作成時点
 
本編では、厚労省より公表された「2017年度 医療費の動向」と「2017年度 調剤医療費の動向」をもとに、診療科別の診療単価などの身近な情報を中心に「1.医療費の動向と診療科別1日当たり外来単価の現状」と「2.調剤医療費の動向と診療科別処方せん単価の現状」を確認し、最後に「3.今後の改定トレンドとデータヘルスによる環境変化」について整理していきます。

本統計における診療科別の実態や全体的な傾向などは、医療機関や薬局の経営における今後の取り組みの一助として活用できます。少しでもお役立ていただければと思います。
 
 
確認 Keyword

・2017年度医療費42.1兆円

・主たる診療科別の1日当たり診療単価/処方せん単価

・医療費に左右される改定のトレンド

・健康寿命の延伸に不可欠なデータヘルス改革

1. 医療費の動向と診療科別1日当たり外来単価の現状

  • 診療種類別の医療費の推移

  • 今回公表された医療費は、労災・全額自費等の費用を含まない医療機関受診の概算の推計値であり、国民医療費の約98%に相当する数値となっています。医療費の動向は、高騰する社会保障費の伸びを抑制する判断指標となり、医療政策や診療報酬の改定率など政府の予算編成に密接に関与しています。とりわけ診療報酬改定は中長期的な社会保障改革に掲げる医療政策を執り進める役割があり、その改定率は医療費の総額を社会保障関連予算の枠内に収める調整機能を担っています。

  • さて、2017年度の医療費は総額42兆1,381億円(前年度比2,263億円増)となり、2016年度は2015年度の高額なC型肝炎治療薬の上市の反動により前年比0.4%の減少に転じましたが、C型肝炎治療のピークが過ぎて平常の増加基調に戻ったことが伺えます(下表)。
  • 医療費の増加は、高齢化の進展と医療技術の高度化により今後も続く見込みであることから、制度改革は「メタボ健診」と「フレイル対策」の2本柱とともに、「データヘルス改革」の推進において医療費適正化のトレンドは継続されていくでしょう。
  •  
  •  

  • 外来における特徴的な医療費の動向

  • まず、外来1日当たり医療費の推移(下表)をみると、大学病院および200床以上の伸びが顕著であり、高度な技術や専門的な治療等の評価や、診療報酬改定における機能分化や連携への適応による評価が医療費を引き上げる要因になったものと推察されます。
  •  
  • 外来医療費が高い主要因には、高齢者の外来受診回数が多い点が挙げられ、紹介状なしの大病院受診時に係る選定療養における患者負担を強いる政策とともに、紹介率・逆紹介率が低い病院側へのペナルティーも設けて、外来医療の機能分化が進められている状況です。病院においては個人区分及び200床未満が他よりも苦戦が強いられている状況であり、中小病院では診療所と連携したかかりつけ医機能の強化や在宅医療の導入等にシフトしていくことが収支改善のポイントになっていくでしょう。

  • これに対して、診療所は大きな変動がなく微増となりました。保険薬局では診療所を超える医療費をキープしているものの、薬剤料(薬価)に左右される経営基盤であるため、後発医薬品の使用促進や薬価差の縮小等により利益を確保することが困難になってきたと言えます。保険薬局に係る調剤医療費の動向は次節で確認していきます。
  •  
  •  
  •  
  • 次に、「医科診療所」における診療科別の外来1日当たり医療費の推移(下表)をみると、医科診療所全体では6,696円となり、診療科目によるバラつきが目立っています。診療報酬における指導料や検査などの算定事項は医療機関により千差万別であり、急性疾患と慢性疾患による投与日数が異なる点も考慮すれば、一概に診療科別の平均値と見なすことはできないものの、診療単価の参考値として参照できるでしょう。

  • 診療科別単価の特徴としては「皮膚科」のみが減少し、その他は軒並み増加し、「内科(8,499円)」が在宅医療などの点数が反映されて最も高くなっています。次に高い「その他(8,372円)」は、診療科目が掲載されていない「泌尿器科」や「精神科」などが含まれると推察され、長期投薬や高額な薬剤を使用している点が他よりも高くなったものと考えられます。次いで「眼科」「外科」「産婦人科」が続いている状況です。
  •  
 
  •  
 

2. 調剤医療費の動向と診療科別処方せん単価の現状

  • 調剤医療費の概要と特徴

  • 調剤医療費は、昨年度はC型肝炎治療のピークが過ぎて減少に転じたものの、2017年度の電算処理分は7兆6,664億円(全数7兆7,129億円)となり、増加基調が伺える結果となりました。処方せんの発行枚数は昨年度を上回り、処方せん1枚当たり調剤医療費(=処方せん単価)は3年連続9千円台をキープしています(下表)。
     
     
    処方せん1枚当たり単価の内訳では、技術料と薬剤料の比率が「1:3」となっており、薬剤料に占める割合が高い薬局ほど、薬価改定や後発医薬品の使用促進の影響を受けやすい収入構造となっています。
     
    今後の薬剤料の適正化において注意すべき点は、医療費に占める割合が高く服用患者が多い生活習慣病薬(先発医薬品)の処方制限です。2018年度改定では議論されながらも導入には至りませんでしたが、処方薬が特定されるフォーミュラリー(疾患別の処方薬リスト)や、あるいは患者が先発医薬品の調剤を希望した場合に後発医薬品との差額を自己負担する制度が導入される可能性もあり、今後の審議動向に注視していく必要があるでしょう。
 
 
 
  • 診療科別の処方せん単価と薬局における今後の対応策

  • 次に、薬局が応需する医科診療所における「診療科別の処方せん単価」の内訳を確認していきます(下表)。こうした処方せん単価の統計データは、診療科別の傾向として経営分析や新規開局の際の参考指標に用いることが可能です。
    技術料の内訳は薬学管理料がほぼ一定であり、調剤技術料が極端に低い「眼科(1,337円)」を除き、概ね1,800円前後となっています。これに対して、薬剤料は2,000円台から6,000円台まで応需する診療科目によってかなりバラつきがあります。特に処方せんの投薬日数は比較的短く、薬剤数が少ない「小児科」と「耳鼻咽喉科」では低くなり、技術料に占める割合は高くなる傾向が見られます。。

  •  
  • 技術料に関わる面では、「患者のための薬局ビジョン」に基づき、服薬指導等のプロセス評価(かかりつけ患者への対応など)や、残薬や減薬に対するアウトカム評価(処方提案や処方変更の実績など)が強化されています。今後も引き続き、「かかりつけ薬局・薬剤師」として対人業務へのシフトが求められ、それに対応していかなければ厳しい改定が強いられる点に留意しなければなりません。
  •  
  • 注意すべき点は、院内処方を引き合いにした調剤料の引き下げだけでなく、改定において大型チェーンをターゲットにした調剤基本料の見直しによる適正化が盛り込まれましたが、調剤基本料の傾斜評価の是正()による技術料全般の適正化にも留意していかなければなりません。整理すると、薬局では薬剤料は薬価改定、技術料は薬局ビジョンへの対応の影響を受けるため、調剤報酬改定に翻弄されず保険調剤に左右されない経営基盤を築いていくには、保険外サービスのビジネスモデル構築が経営安定化の鍵を握るでしょう。
  •  

    ※調剤基本料の傾斜評価の是正
    大型門前薬局に対するディスインセンティブとして、処方せんの集中割合等によって調剤基本料の減額が制度化されているが、その適用は全保険薬局の10%に過ぎず実効性に乏しい。さらに、調剤基本料の減額は患者の自己負担を軽減し、実質的に薬局を選好する誘因・利用者メリットとなり、大型門前薬局への集中を一層促す仕組みになっているため、政府が是正を求めている。
 
 
 
  •  

3. 今後の改定トレンドとデータヘルスによる環境変化

医療費は高齢化の進展と医療技術の高度化により、今後も増加していくことが予想され、逼迫する社会保障財源を考慮すれば、プラス改定は難しいと言わざるを得ません。しかしながら、全てが一律にマイナスになる訳ではなく、政府の成長戦略「健康寿命の延伸」に掲げる施策についてはプラス評価が期待されるところです。

「健康寿命の延伸」に関する施策の本丸は「データヘルス改革」です。データヘルス改革によるIoTやビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどのICT化・イノベーションが推進されている理由は、質の高い効率的な保健・医療・介護の提供体制を構築するためであり、医療従事者のマンパワー不足を補いつつ労働生産性を高め、結果的に医療費の抑制が期待できるからです。
 
データヘルス改革では「①保健医療記録共有、②救急時医療情報共有、③PHR・健康スコアリング、④データヘルス分析、⑤乳幼児期・学童期の健康情報、⑥科学的介護データ提供、⑦がんゲノム、⑧AI(AIホスピタル)」といった8つの具体的な目標が定められ、ICT技術の活用で有機的に連結して産官学で様々な分析を行い、新たな付加価値を創出して国民に還元することが期待されています(下図)。

 
医療機関等が取扱うレセプトデータは、国民皆保険による全国民を網羅した全数データであり、2020年度に稼働する個人単位化した医療保険の被保険者番号の履歴を一元的に管理する仕組みの導入により、データヘルス改革の取り組みに拍車がかかると予想されます。
 
特に、個人の健康・医療情報を一元管理できる「PHR(Personal Health Record)」と、そのPHRを全国規模で利活用するための「EHR(Electronic Health Record)」の基盤整備においてもレセプトデータがその中核を成すため、医療機関におけるカルテや検査等の診療情報をはじめ薬局による服薬情報の管理、その入力方法の変更等への対応は、データヘルス実践に向けた初めの第一歩となってくるはずです。

医療機関等では、診療報酬改定のタイミングでレセコンの仕様変更や入力方法の見直しへの対応が迫られ、このような転機からシステム的な環境変化が加速していくと予想されます。そして、こうした環境変化の一端として診療報酬上の算定要件などにアウトカム評価(実績)が標準化されて、「健康寿命の延伸」に対する医療機関等の貢献の見える化により、質向上の取り組みが適正に評価されていくことになるでしょう。
 
 
 
 

本編の考察

今回は、「2017年度 医療費・調剤医療費の動向」をもとに、診療科目別の実態や全体的な傾向を中心に、医療費に関わる今後のデータヘル政策の方向性とポイントを整理しました。
医療機関等の経営においては、統計情報の傾向のみならず、収入および診療単価の増減に関わる大局的な政策のトレンドを押さえていくことが重要です。以上、今後の医療政策に関わる医療費の最新動向として、経営管理や運営の一助としてご参考にして頂ければ幸いです。
 
レポートの活用について
このレポートの著作権は当社に帰属します。特に定性情報に関して、許可のない無断使用および転用を固く禁じております。
貴社サイトへの転用(例えば、ヘルスケア情報の付加価値を高める資材)、営業のドアノックツール(例えば、営業マンが医療機関等を開拓するための資材)、院内の教育ツール(例えば、最新のヘルスケア情報を学習する資材)などとして、ご活用を希望される方は下記のお問い合わせより別途ご連絡ください。
 
バックナンバーはこちらよりご確認いただけます。
お問い合わせ