介護人材確保に向けた外国人受入れの最新動向

介護情報編 2018.10月作成時点
 
本編では、今般の介護人材の確保に関する厚労省の政策方針外国人技能実習制度の動向などを踏まえて、「1.外国人の介護労働に関する制度の全体像」を確認し、「2.外国人の介護労働に関する制度のポイント」と「3.総合的な介護人材確保対策の目的と必要性」を整理していきます。
政府の外国人受入政策は大転換期にあり、介護分野では介護ビザの創設や技能実習制度の拡張などによる「外国人労働力の活用」が注目を集めています。人材確保は介護事業の最大の課題であり、今後の経営維持・拡大には外国人労働力を活用していく視点も重要になるでしょう。
 
※留意事項
政府は2018年11月2日に、新たな外国人材受入れのための在留資格を創設するための出入国管理及び難民認定法等一部改正法案を閣議決定し、第197回国会に提出し、改正出入国管理法が12月8日の参院本会議で成立しました。これにより、在留資格「特定技能1号」「特定技能2号」を新たに導入し、対象業種は介護など14業種が追加されます。施行は2019年4月が予定され、在留資格に係る掲載内容が、以後変更となる可能性がありますのでご留意ください。
 
確認 Keyword

・外国人介護労働の3つの制度の相違点
・経済連携協定 (EPA)介護福祉士
・外国人技能実習制度の介護職種
・在留資格 介護ビザの創設
・政府の介護人材確保対策の全体像

1. 外国人の介護労働に関する制度の全体像

  • 我が国に在留する外国人は、入国の際に与えられた在留期間や在留資格の範囲内で、在留活動(就労等)が認められています。そもそも在留資格のある永住者の配偶者で定住者 ビザがあれば日本人と同様に雇用することができる訳ですが、今般の介護人材の確保において外国人労働が着目されているのは、定住者ビザのない外国人の介護分野への開放 に関する話題です。
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  • 外国人を雇用する場合には(介護福祉士資格者に限らず)、在留カードやパスポートの上陸許可証印、外国人登録証明書等により、在留期間や在留資格の 範囲を確認するのが鉄則である点をまずは押さえておきましょう。 本編では、定住者以外の外国人の介護労働に関する「経済連携協定(EPA)」「介護の外国人技能実習制度(技能実習生)」「在留資格(介護ビザ)」の3つの違いをまとめていきま す。それぞれ制度の主旨や就労期間、対象国などに大きな違いがあります(下表)。

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  • 3つの制度の共通課題は日本語(言語)習得に関するものであり、日本語能力は職員間や利用者とのコミュニケーションだけでなく、介護技術の習得にも深く関与していることから、外国人雇用の大きな壁となっています。この他、文化の違いなどに苦慮するケースも多く、日本人にはない外国人雇用特有の課題がある点に留意しましょう。
 
 
 
 

2. 外国人の介護労働に関する制度のポイント

ここでは、外国人の介護労働に関する「経済連携協定(EPA)」「介護の外国人技能実習制度(技能実習生)」「在留資格(介護ビザ)」の3つの違いをまとめていきます。
  • 経済連携協定(EPA)における介護福祉士

  • 我が国では、経済連携協定(EPA)に基づき、2008年度のインドネシアを皮切りに、2009年度にフィリピン、2014年度にはベトナムからの看護師・介護福祉士候補者の受入れを開始しています。外国人の受入れは、我が国の看護・介護分野の労働力不足への対応ではなく、「各二国間の経済活動の連携の強化の観点から、公的な枠組みで特例的に行うも のである」と位置づけられています。
     
    これら3ヶ国の外国人は特定活動ビザの取得により滞在期間が原則として看護3 年、介護4年までと決められています(下図)。介護福祉 士候補における1回の在留期間の上限は原則4年ですが、国家資格の取得(合格)後は在留期間の更新回数に制限がなくなり、永続的な滞在が可能となります。

     
    この制度を活用するには、日本で唯一の受入れ調整機関である「公益社団法人国際厚生事業団(JICWELS)」に申し込みを行う必要があります。そして、求人申込手数料、斡旋手数料等の送り出し調整機関への支払いが必要(求人から就労までに発生する費用は100万円超)であり、この他にも日本語研修や導入研修に多額の費用が必要になる点や、最初の半年間は人員配置基準に含められない点などがあるため、経営基盤の安定した大規模法人でなければ導入が難しい実情となっています。
 
 
  • 外国人技能実習制度への介護職種の追加【2017年11月1日施行】

  • 外国人技能実習制度は、「開発途上地域等への技能等の移転を図り、その経済発展を担う人づくりに協力すること」を目的として、我が国の国際貢献において重要な役割を果たしています。この制度の送り出し国はEPAの3ヶ国を含むアジア諸国の計15ヶ国に限定されています。経済連携協定(EPA)と同様に、我が国の介護人材の不足への対応を目的とした制度ではなく、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力の推進を図る」ことを目的とした制度であり、日本の介護技術を他国に移転することは、国際的に意義のあることだと考えられています。
     
    この制度は、一定の要件を満たせば最長5年間(3年後に一旦帰国後に最大2年間の実習)の日本での就労が可能となるものの、介護福祉士の国家試験の受験要件もなく、介護ビザ付与も今の所は想定されていません。介護事業所等では、技術実習制度は技能移転の国際貢献に特化した制度であり、最長5年間しか雇用できない点を押さえておきましょう(下図)。
    また、介護の技能実習生の受入れ施設の要件には、技能実習制度における基本要件に加えて、受入れ施設の要件や受入れ人数の上限、技能実習指導員の経験年数など を満たす必要があり、経済連携協定(EPA)と同様に要件をクリアしなければ活用できない、やや制約のある制度となっています。
     
    他方、技能実習生に対しても様々な要件があり 、職歴要件のほか、入国後に240時間以上の日本語の学習や42時間の介護講習など、「介護職種」特有の要件が盛り込まれています。 この制度を活用するには、送出し国の「公益財団法人 国際研修協力機構(JITCO)」より受入れ、日本の「外国人技能実習機構(OTIT)」による技能実習を受けて、雇用契約は入国前に「管理団体」を介して介護事業所による手続きが必要となっています。

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  • 在留資格「介護」の創設【2017年9月1日施行】

  • 改正出入国管理・難民認定法が2017年9月1日に施行され、外国人の在留資格(ビザ)に「介護」が新設されました。この改正法により、介護福祉士の養成校(都道府県知事が指定 する専門学校等)を卒業した留学生が介護福祉士の国家資格を取得し、留学ビザから介護の就労ビザに変更すれば、最長5年間(更新可能)、現場で働けるようになりました。
    ただし、留学期間中におけるアルバイトは週28時間に制限され、留学生の卒業後の進路は本人の自由選択に委ねることが原則となっています。 この制度を活用するには、対象者本人による介護ビザの申請が必要であり、受入れ施設に関する要件も特段なく、教育が行き届いた養成施設ルートによる即戦力となる外国人 の雇用を検討するうえで、活用しやすい制度といえます (下図)。

     
    押さえておきたいポイントを整理すると、実務を行う介護福祉士資格のある外国人すべてが介護ビザを取得できる訳ではなく、介護福祉士の養成校を卒業していることが条件 となっている点に注意しなければなりません。
     
    そして、この制度の最大のメリットは、就労期間が最長5年の限定的な技能実習生と違い、介護ビザは最長5年であるものの更新 ができ、永続的に雇用できる点が大きな特徴です。なお、制度の規制緩和とともに管理体制も見直しとなり、「在留管理」は地方入国管理局、「技術実習」の許認可は外国人 技能実習機構(OTIT)へと窓口が改編されました。「技術実習」を外国人技能実習制度と同様にOTITとした理由は、介護サービスの質を担保しつつ、全国13箇所ある地方事務 所をより身近に活用できるようにした工夫が伺えます。
 
 
 

3. 総合的な介護人材確保対策の目的と必要性

団塊の世代が75歳以上となる2025年には、最大約245万人の介護職員が必要と推計され、これから年間6万人程度の介護人材を確保していかなければなりません。このため、政府では総合的な介護人材確保対策を推進(予算を充当)している状況です(下図)。

 
 
こうした対策の本質には、介護人材の確保として『環境改善』を図りつつ、『資質の向上』と『参入促進』による三位一体の改革が不可欠となっています。
 
『環境改善』では 「働き方改革」をはじめ、マンパワー不足を補う「介護ロボットの活用」が推進され、『資質の向上』では「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」や「介護職員処遇改 善加算」が推進されています。そして、『参入促進』の一環としては「外国人労働力の活用」のほか「若年層や高齢者の雇用拡大」など、裾野を拡げた労働力の確保が重点化 されています。こうした制度をバランスよく活用していくことで、労働者本位の労働環境を整備し、結果的により良い人材を確保する足掛かりとなるでしょう。
 
 
 

本編の考察

今回は、外国人の介護労働に関する3つの制度の相違点を確認しました。外国人の受入れを検討の際は、制度的な違いだけでなく、全体的な人材確保の対策も考慮して、導入を検討していくことが大切です。以上、今後の人材確保の一助としてご参考にして頂ければ幸いです。
 
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