保健事業と介護予防の一体的な実施に関する動向

介護情報編 2018.7月作成時点
 
本編では、7月19日の社会保障審議会医療保険部会に示された資料や「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」を参考にしながら、「1.健康寿命の延伸に向けた介護予防とフレイル対策」、「2.高齢者向けの保健事業と介護予防の一体的な実施」を整理していきます。

とりわけ高齢者に対する保健事業と介護予防の一体的な実施は、今後の法改正を見据えた議論がスタートされたばかりの未決定事項ではありますが、介護サービスを手掛ける介護事業者において高齢者に関わる重要な情報として押さえておきたい注目される話題です。政府の施策の方針を踏まえ、今後の取り組みの一助として、少しでもご参考にして頂ければと思います。
 
確認 Keyword

・健康寿命の延伸に向けた重点取組分野の三本柱

・保健事業におけるフレイル対策と介護予防

・高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン

・保健事業と介護予防の一体的な実施の推進

 

1. 健康寿命の延伸に向けた介護予防とフレイル対策

  • 高齢者特有の健康障害とその健康課題に対する政府の方針

  • 我が国はかつてない高齢化が急激に進行し、特に後期高齢者の増加が顕著となっています。後期高齢者は複数疾患の合併のみならず、加齢に伴う諸臓器の機能低下を基盤としたフレイルやサルコペニア、認知症等の進行をはじめ、健康状態や生活機能、生活背景等の個人差が拡大する傾向があり、さらには多病・多剤処方・残薬の課題を抱えるなど、特有の健康障害を有しやすい特徴があります(下図)。
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こうした健康障害の不安を取り除き、住みなれた地域で自立した生活ができる健康寿命の延伸、QOLの維持向上を図るには、後期高齢者医療をはじめとした社会保障制度が安定的に運営されることが不可欠です。このため、政府は高齢者が安心して暮らせる地域社会を支え、高齢者の特性を踏まえた健康支援や相談対応ができる体制の整備を目指し、今年度の「経済財政運営と改革」及び「まち・ひと・しごと創生」の基本方針において、「介護・フレイル予防」を推進していく方針を打ち出しています(下記)。
 

経済財政運営と改革の基本方針2018(2018年6月15日閣議決定)より抜粋

▼社会保障の基本方針と重要課題「予防・健康づくりの推進」
高齢者の通いの場を中心とした介護予防・フレイル対策や生活習慣病等の疾病予防・重症化予防、就労・社会参加支援を都道府県等と連携しつつ市町村が一体的に実施する仕組みを検討するとともに、インセンティブを活用することにより、健康寿命の地域間格差を解消することを目指す。

まち・ひと・しごと創生基本方針2018(2018年6月15日閣議決定)より抜粋

▼地域共生社会の実現「疾病や健康づくりの推進による地域の活性化」
人生100年時代を見据えて健康寿命の延伸を図るため、地域における高齢者の通いの場を中心とした、介護予防・フレイル対策(運動、口腔、栄養等)や生活習慣病などの疾病予防・重症化予防を一体的に実施する仕組みを検討する。
 

 

「介護・フレイル予防」の推進は、健康寿命の延伸に向けた「次世代の健やかな生活習慣形成」と「疾病予防・重症化予防」とともに、重点取組分野の三本柱の1つとして位置付けられています。具体的な取り組みの目標は、これらの推進において2040年までに健康寿命の3年以上延伸に向けて、平均寿命との差の縮小を目指しています。
こうした重点取組分野の三本柱を実践していくには、「①健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進」では多様な主体の連携による無関心層も含めた予防・健康づくりを社会全体に浸透させ、「②地域間の格差の解消」においては健康寿命の地域間格差を解消させる必要があることから、この2つの観点が重要視されています(下図)。

 

 

 

保健事業におけるフレイル対策と介護予防の現状

現在の重点取組分野の三本柱に関する施策において、メタボリックシンドロームに着目した「生活習慣病対策」は健保組合や協会けんぽ、国民健康保険における特定健診・保健指導が40歳以上の加入者を対象に実施されています。また、75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度では「フレイル対策」が推進されつつ、介護保険制度においては「介護予防」が組み込まれています。
 
現行の「フレイル対策」および「介護予防」の法律上の位置付けや事業スキーム、財源等を整理した一覧(下図)を確認すると、「フレイル対策」の法律上の位置付けは、後期高齢者医療広域連合における実施は努力義務であることから、実際に行っている保険者は限定的であり、さらには看護師と管理栄養士の専門職配置が一部に限られている(看護師配置は6.4%、管理栄養士配置は2.1%にとどまる)等の課題があります。
 
また、「介護予防」では徐々に取り組みは進んでいるものの、引きこもりがちな高齢者・無関心な高齢者も多く、参加率が非常に低い点(2016年度は4.2%)も課題となっています。そして今後は、こうした課題の解決に向けて、現行の「介護予防」と「フレイル対策」における各々の取り組みから一体的な実施に向けた取り組みへと改めるため、厚労省では法改正に向けた検討会を新たに設置して対応していく方針です。

 
「介護・フレイル予防」の一体的な実施による高齢者のメリットは、これまで以上に健康維持ができるようになれば、医療や介護に費やされる時間とコストの低減によりQOL向上が見込まれることです。介護事業者においては、介護予防単体の取り組みから複合的なアプローチへと見直しが迫られている点を理解する必要があるでしょう。
 
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2. 高齢者向けの保健事業と介護予防の一体的な実施

  • 高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドラインの概要

  • 壮年期と異なる加齢に伴う虚弱等の健康課題を抱える高齢者に対する施策は、これまで明確に示されていなかったため、高齢者の特性を踏まえた保健事業の考え方や具体的な内容を提示した指針として、「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」が2018年4月に策定されました(下図)。

     
    後期高齢者を対象とした保健事業では、健康状態や生活機能、生活背景等の個人差に応じた対応が重要となるため、対象者の階層化とその階層に応じた個別対応の必要性が高まります。これらの取り組みは、地域包括ケアと連携し、介護予防や生活支援とともに推進することにより、フレイルのリスクがある者から病気を抱えながら地域で暮らす在宅療養者まで、様々な対象者にアプローチができ、健康管理を支援することにつながりやすい点が特徴的です。
     
    ガイドラインでは、とりわけ健診結果は健康管理の支援における基本的な情報であり、生活習慣病等の重症化予防の観点からも活用は有効であることから、高齢者と接する機会を捉えて健診の受診勧奨を行い受診率の向上に努めることも必要だとしています。その際、高齢者の医療面や健康状態を熟知し、必要な治療や介護に振分けるコーディネーター役の専門職の役割が重要となり、このコーディネーター役には専門職等を有する人材の地域包括支援センター等への配置が必要とされます。
     
    これに加え、健康・医療情報等のデータ解析に基づき早期に把握(抽出)されたハイリスク者を対象に、必要に応じて地域支援事業における地域サロン等の場や地域包括支援センターの相談や支援等が期待されるため、保健事業の包括的な推進が望まれています。
     
     
     
     
    • 医療保険・介護保険における予防・健康づくりの一体的実施

    • 現在、それぞれ独自に実施されている高齢者の「保健事業」と「介護予防」を地域ぐるみで一体的に実施する仕組みの構築に向けて、見直しを図る方向で検討が進められています。具体的には、高齢者の「通いの場」を拠点として、その拠点を中心とした疾病予防・重症化予防に係る「保健事業」と、運動、口腔、栄養等のフレイル対策を含む「介護予防」の一体的な実施により予防・健康づくりを推進していく方針が打ち出されています(下図)。
       
      「通いの場」の立ち上げや運営支援、拠点の拡大は市町村が担当し、地域医師会等との連携を強化し、必要な受診勧奨や保健指導に関する情報共有などをする構想です。「通いの場」を拡大することは高齢者の生きがいや役割を付与することや、一層の効果的な健康づくり・介護予防につなげることが期待されています。

       
      介護事業者においては、高齢者に関わる制度的な環境変化の方向性を踏まえて、高齢者に対する保険外サービスの提供等を再考していくことが重要です。加えて、健康づくりや介護予防を効果的に実施するために、有用なKDB(国保データベース)を活用したターゲットを絞り込んだ重点的な実施が見込まれるなど、データ解析に基づく科学的介護やデータヘルスに関与している点も押さえておきたい話題になります。
     
     
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    本編の考察

    今回は、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関するポイントを整理しました。2018年4月に策定された「高齢者の特性を踏まえた保健事業ガイドライン」は介護サービスに直接関与しないものの、介護予防の推進や一体的な実施の推進、そして高齢者の生活に関わるため、まずは要所をとらえておくことが大切です。以上、ご参考にして頂ければ幸いです。
 
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