医療機関・薬局における個別指導の傾向と対策

医療情報編 2018.8月作成時点
 
本編では、厚労省が公表した「2016年度の保険医療機関等の指導・監査等の実施状況」や「保険診療における指導・監査」等の情報をもとに、「1.指導・監査・自主返還などの現状確認」、「2.個別指導の傾向と対策、ポイント整理」について確認します。医療機関等における指導・監査等の対策は、法令遵守や経営面において重要性が高いほか、データヘルスに関与する点もあるため、とても重要な取り組みになります。
 
確認 Keyword

・指導から監査に至る流れ

・個別指導の実施件数は4%程度

・個別指導の対策ポイント

・レセプト情報はデータヘルスの根幹

・次世代ヘルスケアシステムの中核を担う重要なレセプト

1. 指導・監査・自主返還などの現状確認

  • 指導・監査等の実施の流れ

  • 医療機関等に対する指導は、「保険診療の質的向上と適正化」を目的として行われ、保険医療機関・保険薬局のみならず、保険医・保険薬剤師の登録者すべてが対象となっています。指導の種類は、下図のように「集団指導」「集団的個別指導」「個別指導」があり、これらを経て「監査」が実施された場合に取消処分や戒告等が決定されます。

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  • 指導・監査等の実施状況、自主返還の現状

  • 下表のように保険医療機関や保険医等に対する指導・監査は、毎年ほぼ定数で実施されています。その理由は、個別指導の実施件数は医科、歯科及び薬局の類型区分ごとに全保険医療機関等の4%程度を実施することになっているからです。
    また、保険指定の取消は多少のバラツキはあるもののも一定数あり、厳格な監視下に置かれているにも関わらず不正行為が後を絶たない状況が伺えます。

  • 2016年度の返還金額は88億9,535万円(指導:40億8,898万円、適時調査:43億5,931万円、監査:4億4,705万円)となりました。返還金額の約半数を占める「適時調査」とは、地方厚生局の担当者が当該保険医療機関等に直接赴いて、届け出している施設基準の充足状況を確認する調査です。
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  • こうした指導・監査等に関わる返還金額は、医療機関等の自主点検結果により決定される仕組みであり、一般的に「自主返還」と呼ばれています。「自主返還」は個別指導の場合は1年分、適時調査と監査では5年分(適時調査は届出時まで遡って返還になる場合もある)が基本とされ、医療機関等の経営において返還は大きな負担になるため、不正行為を排除しつつ、指導・監査等の対策を練っていくことが重要です。
 
 
 

2. 個別指導の傾向と対策、ポイント整理

  • 個別指導の傾向と対策のポイント整理

  • 診療報酬が支払われる条件は、言うまでもなく「診療報酬点数表」に基づく請求が前提であり、適切な診療と正当なレセプト請求を行っていれば、本来は不正請求など起こり得ないものです。そして、法令に対する不正な行為は、医療に限らず、どの分野においてもあってはならないことであり、特に公的な社会保障費を財源とする医療保険制度においては、地方厚生局等による指導・監査等をはじめ、会計検査院の実地検査など、厳格な監視下にさらされていることを改めて認識する必要があります。
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    保険医療機関等に対する指定取消処分の原因となっている不正請求には、「架空請求」「付増請求」「振替請求」「二重請求」があり、指定取消処分等に係る端緒の大半は、保険者や医療機関従事者、医療費通知に基づく被保険者等の関係者からの情報提供という実態になっています。
     
    診療や調剤行為の多くが保険診療・保険調剤の範疇で行われている中、保険指定の取り消しとなれば、事実上、医療機関・薬局の経営は成り立たなくなります。つまり、不正請求等がもたらす影響は、経営者である医師・薬剤師個人だけの問題ではなく、医療機関・薬局に従事する労働者及びその家族の生活、そして診療や調剤を受けてきた患者に至るまで、多岐に波及する点に留意しなければなりません。
     
    指導において、重箱の隅をつつくような地方厚生局の指摘を恐れている方も少なくはありませんが、基本的には「保険診療の質的向上と適正化」を目的にしているため、当たり前のことを行い、やましいことがなければ何の心配もいりません。
  • したがって、健康保険法、医師法、医療法、薬機法等の各種関係法令や保険医療機関及び保険医療養担当規則等の規定を遵守した保険診療・保険調剤を行い、根拠ある診療・調剤に基づくレセプト請求を日頃から実践していれば、結果的に指導・監査等への対策も兼ねることができるのです。
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    指導・監査対策の基本は法令遵守だけでなく、継続的な日常業務において対策を練る必要があります。人的なヒューマンウェア(アナログ対応)による対策には限界があり、加えて、2020年度の本格稼働に向けて「オンライン資格確認」「健康・医療情報の連携・活用」「PHRの構築」「データ利活用基盤の構築」などが推進されているトレンドを勘案すれば、ハード・ソフトウェアのデジタル化対応を検討するのも一案です。
     
    ただし、今般の個別指導では、安易なコピー&ペーストによる画一的な指導内容等の記載が指摘事項になりやすいデジタル化の弊害があるため、患者個々の状態に応じた治療や指導内容の記載をするよう、改めて徹底していくことが大切です。
     
    そして、デジタル化の導入が業務効率につながれば、効率化によって生まれた時間をヒューマンウェア(対人サービス)の充実に反映できます。その効用として、集患に係る「フリーアクセス」という自由競争下において、質の高いサービスの工夫やアイデアを凝らしたサービス提供が患者を惹きつけて差別化を図る要素になるでしょう。
 
 
  • 医科における具体的な個別指導の傾向と対策(一例)

  • レセプト情報はデータヘルス改革の目玉である「次世代ヘルスケアシステム」の中核を成す重要なデータであり、データ利活用基盤の構築に欠かせない医療資源です。
  • つまり、レセプトデータが適正でなければデータヘルスの根幹を揺るがす事態に陥るため、医療機関等における正しいレセプト請求とともに医療ICT化への積極的な参画が不可欠だといえるでしょう。
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    さて、厚労省では「保険診療(保険調剤)確認事項リスト」や「特定共同指導・共同指導の主な指摘事項」、各地方厚生局では「個別指導の主な指摘事項」を整理して定期的に公表しています。正しい業務を実施していれば、いまさらと思われる内容ばかりですが、都度更新される最新情報を確認し、その傾向とポイントを把握することが個別指導対策の早道となります。
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  • ここでは一例を取り上げますので、詳細は厚労省サイトや各地方厚生局サイトに掲載されている原本を各位ご確認ください。
     

「カルテの記載内容及び記載方法」に関する指導例

 
・症状、所見、治療内容・計画、傷病を診断した経緯又は根拠等の記載が乏しい。
・主訴の記載に不備がある、再診患者についての記載内容が乏しい。
・鉛筆ではなくペン・インクで記載する。記載事項の修正は二重線で行う。
・処方欄に用法・用量の記載のない例、医師の指示通りとの記載は不適切。
 
 ⇒レセプトとカルテの突合点検で不備があれば自主返還となる。
 

「傷病名」に関する指導例

 
・傷病名が症状・所見及び検査結果等の根拠に基づいていない。
・傷病名が医学的に妥当性のない記載が多数ある(1行に1傷病名を記載)。
・疑い病名の多様、部位・左右、急性・慢性等の記載モレがある。
・医学的な診断根拠がないレセプト病名、査定対応の記載がある。
 
 ⇒傷病名以外の必要事項(実施理由等)はレセプト摘要欄に記載する。
 

「診療報酬上の算定」に関する指導例

 
・【初再診料】患者からの聴取事項や診察所見の要点の記載がない。
・【管理料】療養上の管理内容の要点の記載が乏しく、画一的な指導内容の記載。
・【往診料】定期的ないし計画的に患家に赴いて診療を行っている。
・【在宅診療】患者の署名付きの同意書がない、カルテに未添付となっている。
・【検査・画像診断】カルテに検査等の必要性および結果の記載がない。
・【投薬】重複投与、過量投与、長期漫然投与となっている。使用部位が未記載。
・【処置等】処置費用に含まれるテープ等を患者負担として徴収している。
・【その他】返戻増減点通知書の紛失(療養の給付に該当する書類は3年間保存)。
 
 ⇒診療部門と事務部門の連携を図り、責任者である医師が確認を徹底する。
 
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  • 調剤における具体的な個別指導の傾向と対策(一例)

  • 調剤に関する基本事項の指摘が多く、当たり前の調剤業務ができていれば何の問題もありません。
  • 薬局では、2020年度のデータヘルス改革の動向次第では、患者のカルテや検査等の情報を踏まえた服薬指導へと変革することも十分考えられるため、医療ICT化などの環境変化に対し、柔軟に適応していくことがポイントになるでしょう。
 

「処方せん」に関する指導例

 
・処方欄の記載に不備のある処方せんを疑義照会せずに調剤している。
・疑義照会の内容等を処方せん又は調剤録に記載していない。
・備考欄等に記入する記載事項について、疑義照会の回答の記載がない。
・後発医薬品への変更調剤について適切に行っていない。
 
 ⇒疑義照会を行った場合は、その照会内容や回答内容の要点等を処方せんの備考欄及び薬剤服用歴等に記載する。
 

「調剤技術料」に関する指導例

 
・後発医薬品の未調剤の理由を調剤報酬明細書の摘要欄に記載していない。
・処方せんの受付時刻よりも前の時刻で記載(入力)している。
・薬剤服用歴の遡及記載、遡及して修正及び追記している。
・薬剤服用歴の記録等に指導内容や処方医への連絡・確認の要点が未記載。
 
 ⇒薬剤の適正使用に係る管理・指導を行う場合に必要不可欠な患者情報の収集を十分に行い、薬剤服用歴に記載する。
 

「電子化」に関する指導例

 
・電子薬歴等のパスワードを定期的(2か月以内)に変更していない。
・電磁的記録における真正性、見読性、保存性が確保されていない。
・故意による虚偽入力、書き換え、消去及び混同を防止する対策が不十分。
・IDとパスワードの組み合わせが本人しか知り得ない状態でない。
 
 ⇒最新版の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン(第5版)」に準拠するよう運用管理規程の更新を行う等、より適切な運用に努める。
 
 
 

本編の考察

今回は、厚労省が公表している指導・監査等に関する情報をもとに、個別指導の対策ポイントを整理しました。指導等に対して必要以上の心配は無用ですが、改めて点数の算定要件や過去の指摘事項等を点検しつつ、算定漏れの対策を練ることで、適正な診療及び調剤業務が強化できるでしょう。以上、今後の取り組みの一助としてご参考にして頂ければ幸いです。
 
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