2026年度改定に向けた課題整理「入院医療その6 特定機能病院入院基本料、医師の診療科偏在、働き方改革、地域加算、病院薬剤師」
■ 特定機能病院入院基本料
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【重症度、医療・看護必要度の見直し】 特定機能病院が、真に高度・重篤な患者(救命救急、高度ながん治療、難病など)を重点的に受け入れているかを評価するため、測定項目の見直しや基準値の厳格化を検討。
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【総合入院体制加算との関係】 「総合入院体制加算」や「急性期充実体制加算」など、類似した高機能病院向けの評価との重複や役割分担の整理。特に手術実績や精神科身体合併症への対応能力などが比較検討。
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【多職種の配置評価】 医師の負担軽減および医療の質向上のため、病棟薬剤師、管理栄養士、特定看護師などの配置や活動を、入院基本料の中でどのように評価するか。
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【栄養管理の強化】 入院早期からの栄養介入(GLIM基準の活用など)による予後改善効果が注目されており、管理栄養士の病棟配置や活動実績をより重視。
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【ユニットの効率的運用】 重症患者の受け入れ枠を確保しつつ、状態が安定した患者の速やかな転棟を促すための評価(早期リハビリや退院調整)が論点。
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【入院基本料の引き上げ】 物価高騰や医療従事者の賃上げ(ベースアップ)に対応するため、病院団体からは入院基本料の大幅な引き上げ(10%程度など)が要望されており、これが2026改定の最大の焦点の一つに。基本料自体の点数設定が、コスト上昇に見合っているかが議論。
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【下り搬送・地域連携】 高度急性期病院である特定機能病院に搬送される高齢者のうち、必ずしも高度医療を必要としないケース(誤嚥性肺炎や尿路感染症など)の対応や、地域包括ケア病棟等へのスムーズな連携が課題。
■ 医師の診療科偏在
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【要件緩和等の見直し】 当番中に実際に診療を行うかを予見するのは困難であることや、勤務間インターバル制度の確保が進んでいる現状を踏まえ、「緊急呼び出し当番の翌日を必ず休日とする必要性」について緩和等の見直しを検討。
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【手術の集約化やタスク・シェア、処遇改善などの評価】 医師数が減少している診療科(外科など)がある現状を踏まえ、地域の診療体制を確保しつつ、勤務環境の改善や診療科偏在の解消を図る取組(手術の集約化やタスク・シェア、処遇改善など)を、診療報酬上でどのように評価するか。
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【外科医等の処遇改善】 業務負担への配慮や支援の観点から、手厚い評価を行いつつ、男女問わず若手医師から選ばれるための労働環境の改善。
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【機能分化】 新たな地域医療構想等を通じた医療の集約化(高度な手術の拠点化など)。
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■ 働き方改革
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【賃上げの達成状況】 医療従事者の賃上げ(2024年度+2.5%、2025年度+2.0%)が目標通り達成されているか検証し、不足がある場合の対応を検討。
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【物価高騰の影響】 食材料費や光熱費、資材価格の高騰が医療機関の経営を圧迫していることを踏まえ、これらを賄うための評価(入院時の食費基準額や基本診療料の引き上げ等)を検討。
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【対象職種の範囲】 賃上げの対象となる職種の範囲や配分方法(職種間のバランス)についての適正化。
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【救急医療体制の維持】 救急や周産期医療など、長時間労働になりやすい分野において、労働時間を短縮しつつ体制を維持するための評価(地域医療体制確保加算等の要件見直し)。
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【宿日直の扱い】 宿日直許可の取得状況や、勤務間インターバル(9時間・11時間)の確保に向けた取り組みの評価。
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【連続勤務の制限】 医師の健康確保の観点から、連続勤務時間や当直明けの勤務負担軽減に関する評価指標の導入。
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【特定行為研修修了看護師】 特定行為研修を修了した看護師の活用拡大と、それによる医師の負担軽減効果の評価。
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【病院薬剤師・事務職員の活用】 病棟薬剤師による業務支援や、医療クラーク(医師事務作業補助者)による書類作成代行等の活用促進。
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【多職種連携】 医師のみで行っていた業務(説明、記録、処置等)を多職種で分担する体制への加算等の拡充。
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【業務負担の軽減】 電子カルテ情報共有サービス、電子処方箋、マイナ保険証等の導入による事務作業の効率化。
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【AI等の活用】 AI問診や画像診断支援、RPA(ロボットによる業務自動化)等による省力化の評価。
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【遠隔医療】 遠隔ICUモニタリングやオンライン診療の活用による、当直・オンコール負担の軽減。
■ 地域加算
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【区分の見直し】 最新の人事院勧告(公務員の地域手当見直し)を反映し、等級区分の入れ替えを行う(上がる地域と下がる地域が出る)。
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【経過措置の扱い】 等級が下がる地域に対して、急激な経営悪化を防ぐための経過措置をどうするか。
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【地域の実情への配慮】 単に公務員の基準に合わせるだけでなく、実際の「医療従事者の需給バランス」や「近隣との競合状況」を加味した微調整が可能かどうか。
■ 病院薬剤師
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【業務に見合った評価】 人件費の確保や処遇改善につながる評価(診療報酬)のあり方。
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【施設間(病院間)の薬剤情報連携】 転院・転所時における切れ目のない薬物治療や、長期的な介入によるポリファーマシー対策を推進するため、病院薬剤師による施設間(病院間)の薬剤情報連携について、診療報酬上の評価をどのように考えるか 。
(考察)
特定機能病院に対し、重症度基準の厳格化や高齢者救急の「下り搬送」を促している点は、高度急性期病院のリソースを守るために「何でも診る病院からの脱却=厳格な絞り込み」を強く求めています。
従来の診療報酬改定議論に加え、今回は「ベースアップ(賃上げ)」と「物価高騰対応」が中心に座っています。これは医療の質以前に、経済的に人が雇えない・病院が回らないという現実的な危機への対処が最優先されていることを示しています。「ベースアップ(賃上げ)」は点数の拡充、「物価高騰対応」は改定点数ではなく、補助金(補正予算)になる可能性もあるでしょう。
医師の働き方改革は、スローガンではなく「義務」の段階に入り、医師の負担を減らすために、特定看護師、薬剤師、事務職員へ業務を移譲(タスク・シェア/シフト)することが、加算等のインセンティブを通じて事実上の「必須要件」となりつつあります。

