2026年度改定に向けた課題整理「高度急性期入院医療その1・急性期入院医療その1」の課題整理
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001491505.pdf
■ 高度急性期・急性期入院医療の課題
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▼ICU・HCU・SCU関連の点数算定要件と実態の乖離
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「特定集中治療室管理料」や「ハイケアユニット入院医療管理料」の算定には、病院機能に基づいた要件が不足していることが指摘されています。救命救急入院料が「都道府県指定の救命救急センター」を要件とするのに対し、ICU/HCUの点数算定は、その施設の持つ「実質的な高度急性期機能」が十分評価されていない可能性があります。
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特定集中治療室管理料5、およびハイケアユニット入院医療管理料を算定する病院は、他の特定集中治療室管理料(1~4)を算定する病院と比較して、病院全体の届出病床数が少ない傾向があります。これは、小規模な医療機関でも算定できる点数設定がある一方で、それらの施設が必ずしも高度な集中治療を多数担っているわけではないという実態を示唆しているかもしれません。
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特定集中治療室管理料等を算定していても、救急搬送件数や全身麻酔件数が少ない、あるいは救急部門を持たない病院が存在することは、高点数の集中治療室管理料が算定されているにも関わらず、必ずしも「高度な急性期機能の集約」という政策目標と合致していないケースがあることを示しています。
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救急搬送や全身麻酔を受けていない患者が約14%いるにも関わらず、特定集中治療室管理料やハイケアユニット入院医療管理料を算定していることは、点数算定の対象患者の範囲や、集中治療室の本来の機能に関する再検討の必要性を示しています。
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▼特定集中治療室管理料の医師配置要件変更(点数区分と経営影響)
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2024年度診療報酬改定で、「特定集中治療室管理料5、6」が新設されました。これは、従来の1~4よりも医師の宿日直勤務を許容することで、より算定しやすい(しかし点数は低い可能性がある)区分を設けたものです。
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改定後、特定集中治療室管理料5、6の届出が大幅に増加し、既存の1~4の施設が減少したことは、多くの医療機関が「専任医師の常時配置(宿日直なし)」という高点数区分の要件を満たすことが困難であり、より算定しやすい(=高点数を諦めてでも維持しやすい)点数区分へ移行したことを示しています。これは、高点数化が現場の実情と乖離している可能性を示唆します。
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この変化は、医療機関にとっての医師確保の難しさや、高点数取得のための人員体制構築の経営的負担が非常に大きいことを浮き彫りにしています。
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▼特定集中治療室遠隔支援加算の活用低迷と点数設計
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新設された「特定集中治療室遠隔支援加算」の算定実績が非常に少ない(計5施設)ことは、この加算の点数が、遠隔支援にかかる設備投資や医師確保、連携体制構築といったコストに見合っていない可能性を示唆しています。
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算定しない理由として「設備投資などの費用負担が大きい」が挙げられていることは、加算点数が費用のインセンティブとして不十分であることを示唆しています。また、「他院から支援を受ける必要がないため」という理由も、この加算の対象となるニーズが限定的であるか、あるいはこの点数で提供される支援内容が十分に魅力的でない可能性を示唆しています。
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■ 急性期入院医療の課題
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▼「急性期一般入院料1」の評価とその限界
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急性期一般入院料は、看護職員配置や重症度、医療・看護必要度、平均在院日数などで点数評価されていますが、最も高点数である急性期一般入院料1の届出病床数は近年横ばいです。これは、高点数を目指すインセンティブが十分に機能していない可能性を示唆します。
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同じ急性期一般入院料1を算定していても、救急搬送受入件数や手術件数にばらつきが見られることは、点数評価が必ずしも実際の「急性期機能の質や量」を十分に反映できていない可能性を示しています。つまり、同じ点数でも提供される医療サービスの内容に差があるということです。
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▼加算算定の地域偏在と点数獲得の難易度
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「急性期充実体制加算」や「総合入院体制加算」といった高点数の加算は、人口規模の大きな二次医療圏(人口20万以上)で多く算定されています。これは、これらの加算を算定するための施設基準や人員配置基準が高く、地方の小規模医療機関では点数獲得が難しい現状を示しています。
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人口規模が小さな二次医療圏の医療機関が地域救急の多くをカバーしていても、大規模病院のような加算点数を算定できていない場合、経営的な課題に直面する可能性があります。
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(考察)
点数と現実の乖離は、医療資源が効率的に配分されていない可能性や、真に高度な急性期医療を必要とする患者が適切な医療を受けられないリスクを示しています。特に、人口規模の小さな医療圏で地域救急を担う医療機関が、高点数の加算を算定できていない現状は、地域間の医療格差や持続可能性の医療提供体制自体の問題に直結しています。
高度急性期・急性期入院医療は、どうしても【要件強化によるふるい落とし】の傾向が強いものの、改定の本質として、地域の実情や各病院の役割をしっかり評価していくことが重要であり、2026年度改定の論点になると考えます。