かかりつけ薬剤師指導料の算定で注意すべきこと

最終回は特別編として、株式会社オオノの伊藤みどりさんに、かかりつけ薬剤師指導料の算定で注意すべきことをお聞きしました。
 
伊藤さんは、宮城県薬剤師会 社会保険委員会の保険薬局業務研修会で、調剤報酬の算定要件について講義するなどご活躍されています。また、昨年新たに株式会社オオノの医療情報安全管理室の室長に就任されたとのことで、医療安全の取り組みやこれからの薬剤師に対するお考えなども伺いました。
 
インタビュアー 富永敦子

「コミュニケーション能力」が一番必要だと思います。

富永伊藤さんの考える「かかりつけ薬局」とはどんな薬局でしょうか?

伊藤さん私の考える「かかりつけ薬局」とは「街の健康ステーション」というイメージです。現在薬局は、「保険調剤」の看板を出していますが、保険調剤は薬局の機能の一部ですので、一般用医薬品の販売、在宅訪問、健康相談、健康に関する検査などの機能も持ち合わせている薬局が「かかりつけ薬局」ではないかと思っています。さらに高齢者へのサポートとして、ケアマネジャー等と連携していくことも必要です。つまり、処方箋調剤+地域住民の健康サポートができる薬局だと思います。

 
ご存じのとおり「健康サポート薬局」という制度が昨年の4月からスタートしました。昨年の10月から健康サポート薬局の届け出が始まりましたが、必須の研修などのハードルもあると思われ、全国的にはかなり鈍い出足です。予想していたよりも進んでいないと思います。2025年には「地域包括ケア」が形となっていることが必要なのに出遅れていないかと心配しています。

富永「かかりつけ薬剤師」に必要なことはなんでしょうか?

伊藤さんまず「コミュニケーション能力」が一番必要だと思います。処方薬に対する相談や服薬指導の際にもコミュニケーションをとることは大切なことですが、「かかりつけ薬局」では地域住民の相談にのって、その方のニーズを受け止めて、薬剤師が必要な情報を提供することも求められます。健康相談では、その方の生活を見直していく必要もあるでしょう。行動変容が必要であれば、その方にあった方法を提案してモチベーションをあげるように話し、適切な指導をしていくわけですから、更に高いコミュニケーション能力が求められると思います。

 
どんなに薬学的な知識があっても、薬局では患者さんからの情報がなければ、提案もできません。患者さんがどのような状況なのか、医師からどのように聞いているかを患者さんから教えてもらう必要があります。そのうえで、配慮の行き届いた話し方でわかるように説明する能力が求められます。
 
薬学的な知識は専門職として重要な要素ですが、患者さんの情報に照らし合わせて考えたり、患者さんから相談を受けることで、興味をもって調べたりしているうちに自然と身につくことも多いように思います。
 
数年前に大学で学生の服薬指導の指導にあたったときに感じたことがあります。

患者さんの情報の聞きだしの場面で、患者さんが話していることに対してきちんと応じていなかったり、同じことを何度も聞いたりしていました。自分の想定外の会話になると、何も答えられない学生もいました。コミュニケーション能力が高い方と低い方がいるのは事実ですが、傾聴や反復などのスキル教育によって、ある程度までは身に付けることができます。これからはこのような意識をもつことが特に必要です。

富永「かかりつけ薬剤師指導料の算定」の際に声掛けする患者さんの選び方についてのお考えをお聞かせください。

伊藤さんその患者さんに特定の薬剤師の関与が必要かどうか、本当にかかりつけ機能を必要としているかどうかを見極めることが重要です。たとえば、特定疾患などの既往歴があって一元管理をしたほうがよい患者さんには、声掛けされるとよいと思います。声を掛けてみると、「私はそういう状態なのだ」と患者さんが自覚することにもつながり、病識や薬識も深まります。

富永「かかりつけ薬剤師指導料の算定」における注意点を教えてください。

伊藤さんまず一元管理です。

 
患者さんがかかっている医療機関の全ての処方箋を、自分の薬局に持ってきているという患者さんは問題ありませんが、他の薬局でも薬をもらっている患者さんの場合は、併用薬をきちんと聞かなければなりません。漠然と「血圧の薬」を併用と記載するのではなく正確な「薬剤名」と「処方量」の記載が必要です。お薬手帳を見て把握するか、分からない場合はその薬局に具体的な「薬剤名」「処方量」を直接確認することも必要でしょう。薬歴には、併用薬を日付とともに確認します。その際、服用していない薬剤は削除するなど情報を更新します。服用している薬剤の一元管理は必須です。
 
それから服薬状況の継続的な確認です。
 
処方間隔があいている場合は、その間に患者さんに状況確認する必要があります。処方が3か月ごとの場合、来局日毎の確認のみでは不十分でしょう。せめて1か月に1回程度は、患者さんに電話で状況確認するとよいでしょう。確認内容は体調、服薬状況、併用薬等です。しかしながら、患者さんとのコミュニケーションがとれておらず、信頼関係が確立していないと「なぜ電話してきたのか」とびっくりされてしまいますよね。予め、かかりつけ薬剤師が何をさせて頂くのか、理解して貰うことも重要です。勿論、実施した確認結果を薬歴に記載することは必須です。
 
薬歴は具体的に記載する必要があります。「かかりつけ薬剤師指導料」の算定というのは、「薬剤服用歴管理指導料」の要件にプラスした指導を実施し、その内容を具体的に記載することが必要です。かかりつけ薬剤師指導料算定では、併用薬についても健康食品やOTC薬も含め確認し、服薬状況も具体的に記載してください。薬学的な指導や生活指導なども、具体的な記載が求められます。たとえば飲み忘れの多い患者さんへ「飲み忘れに注意」ではなく、飲み忘れの原因をアセスメントし、具体的に患者さんに何をして貰いたいのか、指導した内容の記載が必要です。もし、患者さんの行動が変えられないのであれば、医師へ用法変更など処方提案することもかかりつけ薬剤師の役目でしょう。
 
その他薬歴の注意点として、以下の記載が必要です。
・かかりつけ薬剤師の同意取得の旨の記載
・かかりつけ薬剤師の名前の記載
・お薬手帳にかかりつけ薬剤師の氏名・薬局名の記載
・お薬手帳に記載した指導内容:患者さんに必要な指導を記載すること
(手帳を忘れた場合は、指導内容を記載したシール等を忘れずに渡しておき、次回、手帳に貼ってあるか確認してください)
・ブラウンバックは残薬の有無により必要に応じて対応し、渡した場合は記載
(特に、同じ薬を長期に服用している人は残薬チェックに要注意です。突然一包化調剤になる患者さんがいますが、薬剤師はそれまでに残薬状況をちゃんと確認していたのか、問われることとなりますので注意してください)
伊藤みどり 氏
株式会社オオノ医療情報安全管理室 室長
(一社)宮城県薬剤師会 社会保険委員 広報委員
(公社)日本薬剤師会   編集委員