被災地の住民の健康を守るために、かかりつけ薬剤師としての思いを伝える

東日本大震災の被災地である福島県南相馬市にある「あさひ薬局」は、地域の薬局として、あたたかな雰囲気とさわやかな笑顔で、一人ひとりの住民の健康な心と体づくりのお手伝いをしている薬局です。隣接する医院の医師もたとえば必要な方にはお薬手帳に検査値を記載するというように、被災地を意識した住民の健康管理への取り組みを行っています。
 
今回インタビューを受けていただいた桃井氏は、2年前に出身地である南相馬に戻ってきて現在「あさひ薬局」で勤務しています。あさひ薬局での取り組みについてお聞きしました。
 
インタビュアー 富永敦子

これからは健康サポート薬局を目指していきます

富永対象患者さんへの対応はどのようにしていますか?

桃井さん区別しているわけではありませんが、薬以外についての話も聞くことが多いと思います。震災以降、放射線の影響で帰還困難区域に家があるため戻れず、仮設住宅の暮らしをされている方がいます。また、住む環境が変わり、以前のコミュニティを失い喪失感を感じられているので、復興や地元の話で元気づけてもらえるようにしています。

眠剤がないと眠れない方には、眠剤に頼らない方法を提案します。ストレス性の高血圧の方、農業など体を動かす本来の仕事ができない糖尿病の方には、個々に食事や運動などの生活指導も含めて話をしています。成果が出た方には評価し、出なかった方にも患者さんのペースで頑張ってもらうようにアドバイス等をします。

 
かかりつけになってもらうことで、より話す機会が増え、患者さんの状態変化を発見しやすくなります。例えば、腹部の発疹のために救急外来時にステロイド軟膏を処方されてよくならない方には、訴えより帯状疱疹と判断し、皮膚科へ受診勧奨し抗ウイルス薬が処方されました。
 
電話はそう多くはありませんが、お子さんが風邪を引いた時には親御さんから電話がかかってきます。薬の飲み合わせの相談や、薬の飲み方の相談もあります。過敏性腸症候群の方から胃腸の症状をお聞きして、普段と異なる訴えより受診を勧奨したケースもあります。ただし、主治医の先生の治療の妨げにならないよう、アドバイスには注意しています。

 

富永薬局全体で取り組んでいることはありますか?

桃井さんかかりつけ薬剤師指導料を算定している患者さんを職員全員で意識し、話しやすい明るい雰囲気にしています。また、待っている他の患者さんには待ち時間を気にしないように職員が話しかけたりして対応しています。

最近、2名の登録販売者を中心に、OTC薬の販売に力を入れています。その成果として季節のテーマにそった品揃えで販売実績が伸びました。

 

富永今後のあさひ薬局のめざすことを教えてください。

桃井さん多職種の方が待ったなしで2025年の地域包括システムに向かっている中で、薬局は何ができるのか考えていかなければいけないと考えています。これからは健康サポート薬局を目指していきます。また、調剤とOTC薬の販売だけでなく、介護用品、衛生用品、福祉用具などの提供も考えて、この地域の医療介護の資源を把握し介護相談に対応していきたいです。できれば在宅訪問もスタートしたいと思っています。困っている住民へ提案できるように日々勉強は必要と考えています。

 

編集後記

桃井さんは、相馬郡の薬剤師会の理事としても活動しています。福島県薬剤師会のかかりつけ薬局推進委員会に所属し、健康サポート薬局研修会の運営にも関わっています。また、福島県医療福祉情報ネットワークシステムである「キビタンネット」と「電子お薬手帳」との連動による健康サポート推進事業のワーキングチームにも所属し、相馬郡の薬局へのシステム概要、運用方法等の情報伝達を行い、ネットワーク体制づくりに努めています。
 
この地域は薬局が少なく、薬剤師も少なく、毎日夜遅くまで地域住民のために、休みもなく精力的に活動されています。多くの薬剤師が躊躇しているなか「かかりつけ薬剤師指導料」の算定もハードルを感じさせず、患者のサポートに取り組む姿にとても感銘しました。

これからも地域の住民と向き合って、地域の薬剤師の先頭を切ってのご活躍を期待しています。

 
あさひ薬局(福島県南相馬市)
近隣医療機関:循環器内科(その他応需医療機関数:15施設)
かかりつけ薬剤師算定同意数:106人
かかりつけ薬剤師算定件数:平均102件/月 (2017年1月現在)