門前薬局からかかりつけ薬局へという国の示す方向性のもと、平成28年の調剤報酬改定において、かかりつけ薬剤師指導料が新設されました。このことは薬局業界に大きな変化を促すものでしたが、これは提供者側(薬局)にとってのお話です。かかりつけ薬剤師を持つか否か、その意味をどう定義するのかは、国でも薬局でもなく、患者さんです。
医療経営研究所では真に患者が求める「かかりつけ薬剤師」とはどんなものなのかを知り、これを今後の薬局経営に活かしていくことを目的に、複数の薬局さまにご協力いただきアンケート調査を行いました。調査の結果837名の方から有効回答をいただくことができました。
 
調査結果および調査票は、以下よりPDFファイルにてご確認いただけます。
 
 
 

調査結果概要

必要度上位は薬剤師の基本的スキルに集中

あなたが薬剤師に求めることはどんなことでしょうか?
 
14の質問に対してそれぞれに対して5段階で評価してもらった結果は以下のとおりである。
 
順位
必要度
 設問
1 4.13 (9)  病院のお薬・病気の知識が豊富
2 3.69 (1)  あなたの薬に関する情報を記録・管理している
3 3.69 (4)  あなたの担当医師とコミュニケーションが取れる
4 3.59 (8)  市販薬・健康食品の知識が豊富
5 3.57 (6)  薬剤師としての勤務経験が豊富
6 3.37 (2)  他にかかっている医療機関の事も把握している
7 3.36 (12)  病気や健康のことについてアドバイスをくれる
8 3.29 (14)  地域の医療機関や介護施設の情報を把握し、適切に取り次いでくれる
9 3.18 (3)  24時間いつでも気軽に相談できる
10 3.07 (7)  この薬局に長期間勤務している
11 2.93
(11)  いつも同じ薬剤師が、あなたの担当をする
12 2.83
(5)  ご自宅に伺い、お薬の説明や整理ができる(寝たきり等の場合)
13 2.79
(10)  薬や健康に関する相談会を実施する
14 2.36 (13)  自分や自分の家族のことをよく知っている
 
(9)のスコアは他に比べ抜きんでて高く、医薬品や病気に関する知識をもっていることは薬剤師にとって必須事項と言える。上位に該当する項目を言い換えれば、服薬指導、薬歴管理、医師との連携であり、保険薬局の薬剤師の基本的なスキルが、患者の求める事項と一致したといえるのではないだろうか。
 
下位項目をみると、(13)のスコアが低い。薬剤師と患者のつながりは薬を通してのものであり、人間的なつながりをベースとした相談相手という位置づけには現状なっていないことが伺える。(10)が低い点についても、薬局はそもそも薬を受け取る場所であり、相談する場所ではないという認識が患者側にあるのではないかと思われる。(5)については、在宅業務を必要としていないことがうかがえるが、当アンケートは通院可能な外来患者を対象としていることも要因として考えられる。
 

必要度の上位項目と下位項目から考察するに、患者は、処方せんに基づく服薬指導が薬剤師に必要(イメージできる内容)な機能であり、そこから一歩進んだ機能は現状必要ではない(イメージされていない)と考えているといえるのではないだろうか。

 
 

かかりつけ薬剤師を積極的に利用したい人は全体の3

 
かかりつけ薬剤師の利用意向について
 
(15)  あなたのお薬に関する情報を全て把握し、いつでも相談ができるかかりつけの薬剤師を利用したいと思いますか?
 
この質問に対して、必要度合いを5段階で評価してもらった結果、全体平均値は3.28であった。利用意向を4と回答した人は全体の12.7%、利用意向を5と回答した人は全体の17.8%、かかりつけ薬剤師を必要としている患者は4・5合計で30.5%であった。かかりつけ薬剤師の利用意向に関しては現段階ではニーズが高いとはいえず、メリットが患者側に十分に理解されていないことが考えられる。
 
総合評価
 

病気・健康のアドバイスと地域の医療・介護情報がカギ

各項目と15.利用意向の相関について
 
1~14の項目と15の利用意向について、相関係数を求め、かかりつけ薬剤師の利用意向と関連がある項目を分析した。全体として相関係数が抜きんでて高いものはなかったが、上位から順に14.12.11.13.1の項目が0.4を超えており、かかりつけ薬剤師とある程度の相関があるとみることができた。
また、必要度と利用意向の相関係数について、項目別スコアが平均値より高いかどうかを分析し、4つのグループに分類している。
 
属性・エリア別分析結果
 

グループ1:重要項目

必要度(高)・相関係数(高)
必要であり、かかりつけ薬剤師の利用意向への関連が高い項目(カッコ内は必要度)
※相関係数0.4以上のみピックアップ
 
(12) 病気や健康のことについてアドバイスをくれる(3.36)
(14) 地域の医療機関や介護施設の情報を把握し、適切に取り次いでくれる(3.29)
(1) あなたの薬に関する情報を記録・管理している(3.69)
 
利用意向との相関があり、かつ必要性が高い項目であるため、かかりつけ薬剤師の利用促進のための重要項目と考えられる。
 

グループ2:関連項目

必要度(低)・相関係数(高)
必要ではないが、かかりつけ薬剤師の利用意向への関連が高い項目(カッコ内は必要度)
※相関係数0.4以上のみピックアップ
 
(13) 自分や自分の家族のことをよく知っている(2.36)
(11) いつも同じ薬剤師が、あなたの担当をする(2.93)
 
必要度は低いが相関があるため、この項目はかかりつけ薬剤師の利用に関連する項目と考えられる。患者のなかでまだまだかかりつけ薬剤師の機能と直接結びついていない項目であると考えられるので、薬局側としては今後も引き続き啓蒙していくべき項目であるといえるのではないだろうか。
 

グループ3:無関係

必要度(低)・相関係数(低)
必要ではなく、かかりつけ薬剤師の利用意向への関連が低い項目(カッコ内は必要度)
 
(5) ご自宅に伺い、お薬の説明や整理ができる(寝たきり等の場合)(2.83)
(12) 薬や健康に関する相談会を実施する(2.79)
 
必要度も低く、利用意向とひも付かないため、かかりつけ薬剤師の利用推進には無関係であると思われる項目。在宅については、地域包括ケアを考えた場合、将来的に欠かせない機能であることは間違いないだろう。しかし、前述したとおり当アンケートは外来患者を対象にしているものであるため、また薬剤師が在宅現場で活躍している(活躍できる)という理解が患者の中で十分でないため、このような結果になったのではないか。
 

グループ4:あたりまえ

必要度(高)・相関係数(低)
必要だが、かかりつけ薬剤師の利用意向への関連が低い項目(カッコ内は必要度)
 
(6) 薬剤師としての勤務経験が豊富(3.57)
(8) 市販薬・健康食品の知識が豊富(3.59)
(9) 病院のお薬・病気の知識が豊富(4.13)
 
 
必要度は高いが、利用意向とひも付かないため、患者側からすれば薬剤師であれば“あたりまえ”と考えられている項目。

まとめ

知識や経験は必要であるが、それは薬剤師としてあたりまえのスキルであると考えられており(グル―プ4)、在宅の対応や相談会の実施は今回アンケートに回答した来局患者にはあまり関係がない(グループ3)。
 
かかりつけ薬剤師の利用推進のための重要項目は、知識や経験に「+α」が必要であると考えられる(グループ1)。また、現段階では患者側のイメージが薄いが、人間的つながりも今後の関連項目であり、患者に選ばれるかかりつけ薬剤師を目指すうえでポイントになるだろう(グループ3)。
 
かかりつけ薬剤師の利用推進のための重要項目は、以下の3点であると考えられる。
 
(12) 病気や健康のことについてアドバイスをくれる
(14) 地域の医療機関や介護施設の情報を把握し、適切に取り次いでくれる
(1) あなたの薬に関する情報を記録・管理している
 
これに加えて、(11) いつも同じ薬剤師が、あなたの担当をするほうが安心ではないか?という点を啓蒙していくことが、今後の「かかりつけ薬剤師」推進のポイントになるのではないだろうか。
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