「2040年に向けたサービス提供体制等のあり方」のポイント整理(介護分野のインパクト)
2040年に向けた我が国の福祉サービス提供体制の整備は、高齢化と人口減少の地域差を考慮し、「地域包括ケアシステム」の深化と「地域共生社会」の構築を柱に進められています。すべての地域で利用者が自立した日常生活を送れるよう、効率的なサービス提供と福祉人材が働き続けられる環境を目指している点にも注目です。
■ 地域分類に応じたサービス提供体制と支援体制
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日本全国を3つの地域に分類し、それぞれの状況に応じた対応が図られます。
▼中山間・人口減少地域
この地域では、高齢者人口とサービス需要の減少が見込まれるため、以下の点が重視されます。
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【サービスの維持・確保】 介護事業所の存続を促すインセンティブを設け、計画的なサービス基盤の維持を目指します。
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【多機能化と連携】 事業所の多機能化や事業者間の連携を推進し、「看護小規模多機能型居宅介護」などの包括的サービスの設置を促進します。
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【広域的なサービス提供と移動支援】 自治体圏域を超えたサービス提供を可能にするため、移動支援を推進します。
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【柔軟な配置基準】 人材確保が困難な状況に対応するため、常勤・専従要件や夜勤など、配置基準の弾力化を検討します。ただし、サービスの質と職員の負担には配慮します。
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【新規参入支援と現行制度の活用】: 新たなサービス主体の参入を支援し、地域医療介護総合確保基金などの現行制度を最大限に活用します。
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【既存施設の有効活用】 福祉サービス維持のため、既存施設の転用・貸付・廃止に関する規制緩和を検討します。
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【市町村による直接実施】 事業者が少ない場合は、市町村が直接サービスを実施する枠組みも選択肢として検討します。
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【社会福祉連携推進法人の活用】 経営効率化と人材確保のため、「社会福祉連携推進法人」制度の導入を後押しします。
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【障害福祉・保育分野での対応】 介護分野と同様に、配置基準の弾力化や多機能化、法人間連携、統廃合を推進します。
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▼大都市部
2040年にかけて高齢者人口と介護ニーズが急増するため、以下の対応が求められます。
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【サービス基盤の整備】 公的サービスと民間事業者の力を組み合わせ、ICTやAI技術も活用してサービス基盤を整備します。
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【包括的で効率的なサービス提供】 独居高齢者の増加に対応し、ICTやAI技術を活用した24時間365日の見守りを前提に、訪問・通所サービスなどを組み合わせた包括的サービス提供を検討します。
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【テクノロジー導入支援】 緊急時の予測精度向上や業務効率化のため、テクノロジーの導入支援を強化します。
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【設備の基準の見直し】 土地・建物の価格が高い実情を踏まえ、サービスの質を維持しつつ設備の基準を見直します。
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▼一般市等
2040年までに高齢者人口とサービス需要が「増加から減少へ転じる」見込みのため、以下の点が重要です。
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【既存資源の有効活用】 既存の介護資源を有効活用し、需給の変化に応じた過不足ないサービス確保を目指します。
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【早期準備】 将来的に中山間・人口減少地域へ移行する可能性を考慮し、早い段階から柔軟な対応への準備を進めます。
■ 人材確保と職場環境改善・生産性向上(DX活用)、経営支援
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福祉サービス全体にとって最大の課題である人材確保に向けて、職場環境改善・生産性向上(DX活用)も視野に入れた取り組みが強化されます。
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【処遇改善と賃上げ】 物価高や全産業平均の動向も踏まえ、賃上げや処遇改善を推進します。
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【人材確保・定着のためのプラットフォーム機能】 都道府県単位で、ハローワーク、福祉人材センター、介護事業所、養成施設などが連携し、人材確保・定着、職場環境改善、生産性向上、経営支援、介護のイメージ改善などに取り組むプロジェクトを創設します。
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【タスクシフト/シェアと多様な人材の活用】 業務の整理・切り出しや入門的研修を通じて、介護助手などの専門人材以外の活用を推進します。
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【テクノロジーの活用・導入支援】 テクノロジー導入やタスクシフト/シェアにより、業務改善・効率化を進め、職員の負担軽減とサービスの質向上、人材定着を図ります。 国は、イニシャルコスト・ランニングコスト支援に加え、テクノロジーの効果実証、導入事例の提示、試用貸出の仕組みを通じて普及を促進します。
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【AIの活用】 介護記録ソフトの普及と合わせて、生成AIによる計画書や議事録の原案作成など、在宅サービスの業務効率化を促進します。
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【デジタル中核人材の育成】 事業所内で生産性向上を推進するデジタル中核人材の育成・配置を進めます。
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【経営改善に向けた支援と連携】 都道府県単位で、雇用管理、生産性向上、経営支援等を一体的に支援するネットワークを構築し、地域の専門機関や専門職との連携を強化します。
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■ 地域包括ケア、医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア
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福祉サービス全体における共通課題の解決には、地域内の事業者、行政、関係団体、公的機関、専門職など、多様な関係者の「連携」が不可欠となります。この連携を通じて、分野を超えた地域共通の課題解決と地域づくり・まちづくりを推進し、「全世代」の住民が支え合い、地域で暮らし続けられる「地域共生社会」の実現を目指します。
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【医療介護連携の強化】 85歳以上の複合ニーズを持つ高齢者への対応を強化するため、医療と介護の連携を強化し、適切なサービス提供の受け皿を確保します。
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【地域医療構想との連携】 地域医療構想調整会議を活用し、高齢者施設等の協力医療機関の調整、医療・介護資源の「見える化」と分析を進め、介護保険事業計画と医療計画のすり合わせを行います。
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【介護予防・健康づくりの推進】 高齢者が地域支援の担い手となる「通いの場」の拡大など、介護予防の取り組みを活性化させ、高齢者の自立支援と重度化防止を図ります。
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【認知症ケアの充実】 認知症基本法に基づき、「認知症になっても希望を持って暮らし続けられる「新しい認知症観」」を推進します。認知症カフェや就労の場、ピアサポート活動など、認知症の人の幅広い居場所づくりと社会参加の機会を充実させ、社会的孤立を解消するための地域づくりと権利擁護・意思決定支援を包含した地域包括ケアシステムを進めます。
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(考察)
- この方針は、日本の高齢化と人口減少がもたらす課題に対し、地域の実情に応じた柔軟かつ包括的な対応を目指しています。今後の制度改正や財政支援によって、これらの取り組みがどのように具体化されるかに注目が集まります。