2027年度介護保険制度改革に向けた審議動向、介護サービス事業者の対策ポイント
2025/06/04
今回は、2027年度介護保険制度改革に向けて、社会保障審議会 介護保険部会(2025.06.02)が公表した「地域包括ケアとその体制確保のための医療介護連携、介護予防・健康づくり、認知症ケア」の資料を踏まえ、施設系・居宅系のそれぞれのサービス事業者に関わるポイントを確認していきます。
施設系サービス事業者も居宅系サービス事業者も、単体でサービスを提供するのではなく、互いに連携し、地域全体の医療・介護資源、さらには地域住民の力を活用しながら、利用者一人ひとりのニーズに応じた包括的で継続的なケアを提供していくことが求められています。
■ 施設系サービス事業者に関わるポイントと対策
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▼医療介護連携の強化
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- 【協力医療機関との連携義務化】 令和6年度の介護報酬改定で、介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、介護老人保健施設、介護医療院は、入所者の急変時等に対応できる協力医療機関の確保が義務付けられました。これは、施設内で対応可能な医療範囲を超えた場合の適切な対応のためです。
- 【急変時対応と入院受け入れ】 協力医療機関は、相談対応、診療、そして必要時の入院受け入れ体制を常時確保することが求められます。
- 【情報共有と再入所への努力】 協力医療機関との間で急変時等の対応を確認し、その名称等を自治体に提出する必要があります。また、利用者が入院した後に病状が軽快し、退院可能となった場合には、速やかな再入所が努力義務とされています。
- 【老健施設における治療管理の評価】 介護老人保健施設(老健)は、高齢者の急変時対応として、肺炎や尿路感染症などの疾患の治療管理を評価され、適切な管理によって状態悪化を防ぎ、円滑な入院につなぐ役割が期待されています。
- 【退所後の情報提供】 老健施設を含む介護保険施設は、退所後の主治医への情報提供が努力義務とされています。
- 【在宅復帰支援の役割】 特に老人保健施設は、入院後の在宅復帰を支援する役割が重要視されています。
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▼介護予防・健康づくりにおける役割
- 【通いの場の設置・連携】 介護老人保健施設等の医療等専門職の活用や、施設内で「通いの場」を設置するなど、地域における介護予防の取り組みへの連携が重要とされています。
- 【生活機能低下者への専門的関与】 フレイルの可能性がある(生活機能が低下している)高齢者に対し、介護老人保健施設等の医療専門職が早期かつ集中的に関与することが求められています。
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▼対策の着眼ポイント
- 【実効性のある協力医療機関の確保】 地域の実情に応じた、休日・夜間対応や入院受け入れが可能な協力医療機関との連携体制を構築することが最も重要です。既存の連携が不十分な場合、都道府県が行う地域医療構想調整会議の場を活用して、医療機関とのマッチングを進めることが有効です。
- 【多職種連携・情報共有の促進】 施設内の医師・看護職員だけでなく、地域の医療機関、訪問看護事業所、ケアマネジャー等との定期的な情報共有、顔の見える関係構築を積極的に行い、入退院支援、急変時対応、日常の療養支援、看取りといった各場面での連携を円滑に進める。
- 【施設機能の地域への開放】 施設の専門職(リハビリ職など)を地域住民の介護予防活動に活用したり、施設のスペースを「通いの場」として提供したりするなど、地域貢献の視点を持つ。
- 【DX・テクノロジーの活用】 医療介護連携における情報共有の効率化のため、電子カルテ情報共有サービスなどの医療DX推進を活用し、事務負担の軽減と連携強化を図る。
■ 居宅系サービス事業者に関わるポイントと対策
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▼医療介護連携の強化
- 【在宅医療・介護連携推進事業への関与】 市町村が中心となって進める在宅医療・介護連携推進事業において、医療関係者(医師会など)と緊密に連携し、相談窓口の設置や情報連携ツールの整備に協力します。
- 【多職種協働による在宅医療・介護の提供】 訪問看護事業所、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)などが連携し、利用者・患者の在宅療養を支援します。
- 【入退院支援、日常の療養支援、急変時対応、看取り】 これら在宅医療・介護連携の主要な場面において、医療機関や地域包括支援センターと連携し、情報共有やサービス提供を行います。特にケアマネジャーは、医療機関と介護事業所間の情報連携を調整する役割が重要です。
- 【居宅療養管理指導】 主治医等と居宅介護支援事業所との連携が評価されており、医師や薬剤師、歯科医師等が居宅を訪問し、療養上の管理や指導を行うことで、在宅での生活を支えます。
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▼介護予防・健康づくり、日常生活支援
- 【介護予防ケアマネジメント】 地域包括支援センターと連携し、要支援者のケアマネジメントや、介護予防・日常生活支援総合事業におけるサービス提供の調整を行います。
- 【重度化防止への貢献】 訪問介護や通所介護といったサービスを通じて、高齢者の自立支援や重度化防止に貢献します。
- 【生活支援・地域共生社会の推進】 介護予防・日常生活支援総合事業を活用し、医療・介護専門職の専門性を発揮しつつ、地域の多様な主体と連携し、生活支援や介護予防のニーズに効果的かつ継続的に対応します。
- 【インフォーマルな支え合いとの連携】 住民主体の「通いの場」や高齢者の社会参加の拡大を支援し、インフォーマルな支え合いと連携することで、地域共生社会の実現を目指します。
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▼認知症ケアにおける役割
- 【独居認知症高齢者への支援】 家族や親族がいない独居の認知症高齢者に対し、必要な社会的支援(生活支援、権利擁護・意思決定支援、住まい支援など)への情報提供やサービス提供を通じて、社会的孤立を解消し、地域社会とのつながりを確保します。
- 【インフォーマルな支援との連携】 軽度の認知症の人にとって、インフォーマルな支援が重要であり、居宅サービス事業者はこれらインフォーマルな支援との連携を強化する必要があります。
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▼対策の着眼ポイント
- 【多職種連携の促進と情報共有の徹底】 ケアマネジャーが中心となり、医師、看護師、リハビリ専門職、薬剤師、歯科医師、地域包括支援センターなど、多職種との間で密な情報共有と連携を日常的に行う。「顔の見える関係」の構築を意識的に進める。
- 【人材確保と質の向上】 訪問介護員をはじめとする居宅サービスの人材不足が指摘されており、処遇改善、雇用管理の改善、テクノロジー導入による業務効率化、多世代・多様な人材の確保(介護助手など)を通じて、人材の定着と質の向上を図る必要があります。
- 【地域資源の把握と活用】 地域の医療資源・介護資源、そして介護予防や生活支援に資するインフォーマルな資源を把握し、利用者のニーズに合わせて適切に組み合わせる能力を高める。自治体による「見える化」された情報や好事例を積極的に活用する。
- 【ICT活用による効率化】 介護記録ソフトやAIなどのテクノロジー導入を積極的に検討し、事務作業の効率化を図り、利用者への直接的なケアや連携業務に時間を割けるようにする。
- 【地域のニーズに応じた柔軟なサービス提供】 サービス需要の変化や地域ごとの特性(中山間・人口減少地域、大都市部など)を踏まえ、既存のサービスを有効活用したり、必要に応じてサービス間の連携・柔軟化、市町村事業によるサービス提供なども検討したりする。
- 【家族介護者への支援の強化】 家族介護者の負担軽減のため、仕事と介護の両立支援情報提供、相談対応、家族介護支援事業の活用を支援する。
2027年度介護保険制度改革に向けた審議では、単に個別の施策を列挙するだけでなく、来るべき超高齢社会において、医療と介護、そして地域社会全体が連携し、柔軟に対応していく必要性を強く訴えています。特に「地域差」と「多職種・多機関連携」が、今後の制度設計と地域づくりにおけるキーワードとなるでしょう。