品川区要介護度改善ケア奨励事業

2018年度の介護報酬等改定においては自立支援が一つのキーワードになると予測されるため、今のうちからアウトカム評価の視点を取り入れた運営を行うことが重要になります。
 
今回は、国や自治体も注目している「品川区要介護度改善ケア奨励事業」の状況や展望等について、品川区福祉部の永尾文子参事と高齢者福祉課施設支援係の岩田正明係長より大変興味深いお話しをたくさん聞かせて頂きました。
 
インタビュアー 関田典義

要介護4や5の方が改善のケースも

関田毎年度新規の対象者が増えているのですね。要介護4や5の方が改善するケースもあるのですか。

永尾氏事業開始時の2013年度と2014年度は要介護4から3へ軽減した対象者が計30名と多く、2015年度は要介護5から要介護4へ軽減した対象者が16名となっています。なかには、特養入居者で要介護4から1になったケースもあります。

2段階以上変更したケースを調べてみると、多くは病院から退院後施設に入居した方でした。例えば、脳梗塞から認知症状が出て常時見守りが必要な方が、施設でのケアにより、現在はほぼ自立して着替えることが出来るようになり、職員が会話をすると受け答えも出来るよう変わってきました。

関田どのようにサービス・ケアの内容や視点を変え、心身機能の維持・向上につなげているのでしょうか。

永尾氏一言でいうと、利用者の自立したいという気持ちを引き出すような介護をしていることだと思います。要介護4や5になるとベッドでの生活になることが大半であり、毎日同じ状況が続くと生きる気持ちも薄くなります。残された機能があるので、そこをうまく引き出していくことが大切です。元気だった頃の利用者の生活状況を把握し、状態を見ながら洗濯物を畳んでもらったりテーブルを拭いてもらったりと、本人に役割を持って頂きます。人の役に立つことが生きがいにつながり、その積み重ねで徐々に改善するケースもあります。本人の性格もありますが、前向きに考える方だとより効果が出てきます。

関田自立をサポートする視点・意識を職員が持つことにより結果が変わってくるケースがあるのですね。高齢者は機能が落ちていくだけだという話を聞くこともありますが、私はそうではないと思っています。流動性能力は低下するかもしれませんが、一方で結晶性能力は伸びていくこともありますので、そこに着目することが大切だと感じています。介護はできないところをサポートするという見方をされやすいですが、出来るところを探しそこを伸ばしていくという視点を持つことで、自立支援にもつながっていくものと考えます。

永尾氏そうですね。あまり高すぎない目標で、一歩一歩自分の出来ることを増やしていくことが大切だと思います。

関田小さな変化をプロフェッショナルである介護スタッフは見ていますので、改善されると喜びにつながるのではないでしょうか。

永尾氏介護スタッフが一番嬉しいのはそこだと思います。モチベーションが上がりますし、改善した結果を行政が把握し認めることで、より喜びが出てくると思っています。

関田素晴らしい取り組みですね。各施設では奨励金をどのように活用されているのでしょうか。

永尾氏それぞれの施設の工夫が大切ですので、区としては用途について特段定めておらず、施設側で考え活用したものを報告してもらっています。活用状況を見ると、設備改修や必要備品の購入、派遣・臨時職員の雇用や介護用品(エアマットや各種センサー等)、マッサージ器を購入し休憩室に設置するなど、スタッフの負担が軽減されるものを購入しています。

関田スタッフが少しでも楽になるよう工夫されているのですね。このようなインセンティブを設けた制度の場合、改善しやすい利用者を線引きする等、いわゆるクリームスキミング的なことが行われたりしないでしょうか。また、老健の利用者は要介護度が改善しやすい等の傾向はあるのでしょうか。

永尾氏利用者の線引き等は出来ない仕組みになっています。例えば、他エリアでは直接特養に入居申込みをしますが、品川区は年に2回(2月末、8月末)、高齢者福祉課内にある統括在宅介護支援センターへ申込みするようになっています。その後、医師や民生委員等のメンバーで入所調整会議を行い、緊急性等を点数化します。区内に概ね500名の待機者がいますが、緊急度が高い順の名簿を作成していますので、大半が要介護度の重い順に入居しています。

老健は区内に1か所ありますが、事情がある方を除き、3ヵ月での退所ルールはほぼ守られています。当事業は1年間を評価期間としていますので、老健の性質を考えるとそぐわない部分もありました。対象者が限られていたため、2014年度より「基準日に在籍」という要件を老健のみ外し、入居中の認定更新であれば対象とする内容に変更しています。その結果、2015年度の老健対象者は12名まで増えています。

関田今後、当事業を在宅系まで拡充される予定はありますか。自宅にいる利用者の要介護度が改善された場合、家族の援助や生活状況など様々な要因が関係しているため、介護サービスの提供による結果なのか、評価の難しさがあるのではないでしょうか。

永尾氏施設では栄養を考えて食事が提供されており、居室の温度や湿度といった環境も整えられています。24時間365日のサービスによる結果として施設系を評価しています。在宅サービスでは、何が要因で改善したのかが分かりません。何か指標があれば良いのですが、現状では在宅系まで対象を拡充していくことは難しいのではないかと考えています。