品川区要介護度改善ケア奨励事業

2018年度の介護報酬等改定においては自立支援が一つのキーワードになると予測されるため、今のうちからアウトカム評価の視点を取り入れた運営を行うことが重要になります。
 
今回は、国や自治体も注目している「品川区要介護度改善ケア奨励事業」の状況や展望等について、品川区福祉部の永尾文子参事と高齢者福祉課施設支援係の岩田正明係長より大変興味深いお話しをたくさん聞かせて頂きました。
 
インタビュアー 関田典義

目に見える形で評価できる制度を設計出来ないか

関田本日は宜しくお願いします。国や他自治体に先駆け、品川区では入居者の要介護度を改善した介護保険施設等を対象に、奨励金を交付する「品川区要介護度改善ケア奨励事業」を実施しています。はじめに、当事業の概要と実施に至った背景についてお聞かせ下さい。

永尾氏介護保険制度施行当初より、品川区では介護サービスの質向上に大変関心を持っていました。2002年度に「品川区介護サービス向上委員会答申書」において、“施設自らがサービス内容を見直すことが重要”という考えが示されたことを機に、2003年度より「品川区施設サービス向上研究会」を立ち上げました。当研究会には、品川区内の介護老人福祉施設(以下、特養)及び介護老人保健施設(以下、老健)、特定施設入居者生活介護(以下、特定施設)、障がい者施設が任意で加入しており、セルフチェック(自己評価)シートの開発・運用を中心とした質の評価に関する取組みを行っています。当研究会で、常日頃からサービスの質向上に関する取組みを行っている結果として、入居者の要介護度が改善された場合に、一人当たり月額2~8万円の奨励金(※)を支給しています。

このような区独自の制度を創設する直接のきっかけは、高齢者福祉課の職員が介護保険施設を見学していた際、きめ細やかなサービスを提供している現状を見て、“これを目に見える形で評価できる制度を設計出来ないか”と考えたことです。

(※)品川区要介護度改善ケア奨励事業の概要

年度の初日(基準日)に施設に引き続いて入所し、かつ、基準日の属する年度の前年度1年間(評価期間)において要介護度が軽減された者が対象となる。奨励金の交付額は、要介護度1段階改善:2万円/月、2段階改善:4万円/月、3段階改善6万円/月、4段階:8万円/月。交付対象期間は、認定更新月から最大で12ヵ月間。例えば2016年6月に区分変更し改善に至った場合、10ヵ月分が2016年度に支給され、残りの2ヵ月分は翌年度予算で支給される。

関田品川区施設サービス向上研究会に加入している施設等が当事業の対象になるのですね。実際、どのような施設が加入しており、どのように介護サービスの質を高めているのでしょうか。

永尾氏加入要件は、品川区内の施設であること、セルフチェックに取り組むこととなっており、現在15施設(特養9、老健1、特定施設5)あります。毎年、施設長や職員がセルフチェックシート(128項目)をもとに現状を確認し、その結果を品川区で集計・対象施設にフィードバックしています。その後、各対象施設ではサービス向上計画を策定し実行していきます。

当シートは品川区と施設サービス向上研究会で毎年見直しており、双方でPDCAを回しながらサービスを向上させていきます。これら取り組み内容や結果を広く周知することで、区全体のサービス水準の向上につなげています。

関田「品川区独自のサービス水準」という共通の物差しを作成し、職員自身がサービスの在り方等を確認し、活かせるようになっているのですね。各自治体で運営基準等をチェックする自己点検シートはありますが、サービスの質を確認するようなシートはあまり見られないですね。

永尾氏そうですね。具体的な項目が出ており数値化されているので、強みや弱みが分かります。その検証をスタッフ自身が行うことに効果があります。施設長や管理者だけではなく、現場スタッフ自らがサービスの質改善の意識を持たなければなかなか良くなりません。このような取り組みの結果、一定程度効果が出ているのではないかと思っています。

関田実際、当事業の予算額や介護給付費の削減につながっている等、可能な範囲で教えて下さい。

永尾氏対象施設が増えているので予算額は年々増加しています。奨励金交付額を見てみると、2013年度は680万円、2014年度は1,246万円、2015年度は1,438万円となり、対象者数も47名、86名、98名と増えています。介護給付費については、トータルで見ると減少しています。しかし、長い目で見ないと本当の効果は分からないと思っています。